コラム

Windows 11の登場に合わせて最新版がリリース
「Windows for IoT」アップデート情報の気になる中身とは?

2021年10月にマイクロソフト「Windows 11」がリリースされたのとほぼ同時期に、組み込みOS「Windows for IoT」ファミリーに含まれる「Windows IoT Enterprise」の最新バージョンが登場しました。この新バージョンは、旧バージョンと何が違うのでしょうか。今回は東京エレクトロン デバイス(TED)が開催した「Windows for IoT アップデートセミナー」の内容をもとに、新しいWindows IoT Enterpriseのサポートライフサイクル、変更点、新機能などについて解説します。

Windows for IoTとは?

マイクロソフトは各種装置や家電製品のような特定の機能・用途に特化した専用機器(アプライアンス)向けの組み込みOSとして「Windows for IoT」を提供しています。以前は「Windows Embedded」という名称でしたが、2015年にWindows 10が登場したのを機に改称されました。

 

Windows for IoTはWindows 10/11ベースの「Windows IoT Enterprise」、Windows Serverベースの「Windows Server IoT」、小型デバイス向けに最適化された「Windows IoT Core」の3種類で構成されています。基本的にデスクトップ版Windows Enterpriseエディションまたはサーバー版Windows Serverと同等の性能、管理性、セキュリティ機能を備えていますが、デスクトップまたはサーバー用のWindowsとは違ってOS単体での利用や販売は認められていません。何らかの目的を持ったアプライアンスに組み込んで使うOSのライセンスであり、アプライアンスメーカーがライセンス・ディストリビューター経由でマイクロソフトと契約することになります。

 

Windows for IoTに含まれるエディションのうち、最も多く利用されているのがWindows IoT Enterpriseです。Windows IoT Enterpriseには、定期的に機能の追加・更新が行われる「Windows 10/11 IoT Enterprise」、リリースした当初の機能で固定される「Windows 10 IoT Enterprise LTSC(Long Term Servicing Channel)」の2種類があります。前者はOSの新機能追加やユーザーインターフェイス変更が必要な製品、例えばPCと同一バージョンの環境が必要な装置、OS更新が随時必要なクラウド連携エッジデバイスなどに適しています。後者は長期的な安定運用や同一性確保を重視する製品、例えば医療機器、製造装置、POSシステムなどに適したライセンスです。

 

以下、本稿ではWindows IoT Enterpriseを中心に解説します。

組み込みOSの最新版が登場

2021年10月、マイクロソフトはWindows 11をリリースしました。これに合わせてWindows IoT Enterpriseにも新製品が登場しています。それが「Windows 11 IoT Enterprise」と「Windows 10 IoT Enterprise 2021 LTSC」です。また、既存製品「Windows 10 IoT Enterprise」の新バージョン「21H2」および「Windows 10 IoT Enterprise 2019 LTSC」も併売されています。

 

サポートライフサイクルについては、Windows 10 IoT Enterpriseの最新バージョン以降はバージョンごとのサポート期限が30カ月、製品サポート終了が2025年10月13日に設定されています。Windows 11 IoT Enterpriseはバージョンごとのサポート期限が36カ月、サポート終了が現時点で未定なので、いずれは10から11への移行を検討する必要があります。ちなみに、今回のバージョンからは10も11も年1回の機能更新、月1回の品質更新(バグ修正やセキュリティパッチの適用)となっています。

 

LTSCについては、2019の延長サポート終了が2029年1月9日、2021の延長サポート終了が2032年1月13日に設定されています。LTSCの場合は月1回の品質更新のみが提供され、機能更新はありません。

 

すでにお気づきだと思いますが、Windows IoT Enterpriseのほうは「11」がリリースされたのに対し、LTSCは引き続き「10」のままです。したがって、LTSCはユーザーインターフェイスや機能はWindows 10 IoT Enterpriseとほぼ同一であり、UWP(Universal Windows Platform)アプリとMicrosoft Storeが削除されている程度の違いしかありません。「Windows 11 IoT Enterprise LTSC」が登場するとしても、早くても2022年以降になると思われます 。

 

図1● Windows IoTのバージョン変遷とサポートライフサイクル図1● Windows IoTのバージョン変遷とサポートライフサイクル

「10」と「11」の相違点

では、Windows 11 IoT EnterpriseとWindows 10 IoT Enterpriseはどこが違っているのでしょうか。サポートライフサイクルの差異については触れましたが、それ以外にも最小ハードウェア要件、ユーザーインターフェイス、対応デバイス、搭載ブラウザなどに違いがあります。

 

まずハードウェア要件については、下表のような違いがあります。ちなみに、Windows IoT Enterpriseのハードウェア要件は、一部の例外を除いてデスクトップ版同バージョンの条件が適用されることになっています。対応プロセッサについては、別にリストとして公開されています(https://docs.microsoft.com/ja-jp/windows-hardware/design/minimum/windows-processor-requirements)。

 

ユーザーインターフェイスもデスクトップ版同バージョンと同じで、Windows 11 IoT Enterpriseにはスタートボタンが中央(デフォルト配置)にあるモダンUIが採用されています。対応デバイスについては、Windows 11はUSB4、Wi-Fi6Eといった新規格をサポートするものの、LTSCを含むWindows 10には将来を含め対応予定がありません。また搭載ブラウザは、Windows 10/11ともに新しいMicrosoft Edgeがプリインストールされるようになりました、それに加え2021 LTSCのみ引き続きIE11もプリインストールされます。

 

IE11のサポートはプリインストールされているOSのサポート期間に準じますので、LTSCでは他のWindows OS上のIE11とは異なり、2022年06月を超えてサポートを受けることが可能です。

https://blogs.windows.com/japan/2022/02/21/internet-explorer-11-desktop-app-retirement-faq/

 

 

図2●Windows 10と11 の「IoT Enterpriseハードウェア要件」の違い図2●Windows 10と11 の「IoT Enterpriseハードウェア要件」の違い

 

最新版共通の新機能

このように同時に登場したWindows 11 IoT EnterpriseとWindows 10 IoT Enterprise 2021 LTSCでは、違いもあるものの、ほぼ同じ新機能が搭載されています。

 

また、リアルタイムに稼働するアプリケーションのプロセスをあらかじめ確保し、複雑なマルチスレッド環境でも優先順位を逆転させることなく実行できる「Soft Real Time」も搭載されました。

 

もちろん、Windows 10 IoT Enterpriseが備えていた利便性の高い機能はそのまま継承されています。例えば限られたアプリケーションのみの実行を許可し、ファイル操作や設定変更、ディスク書き込みや外部デバイス(USBメモリなど)接続を禁止する「ロックダウン」、コンテナ化されたLinuxワークロードをWindowsアプリケーションと同時に実行できる「Azure IoT Edge for Linux on Windows」などの機能は、最新バージョンでも引き続き利用できます。

 

このように新しくなったWindows 11 IoT Enterprise、またはWindows 10 IoT Enterprise 2021 LTSCを製品に組み込むには、マイクロソフトと契約(OEM CLA)を結んだうえでTEDをはじめとするディストリビューターからライセンスを購入することになります。

 

なお、TEDでは製品メーカーに対するマスター作成支援、キッティング・インストール支援を行っているほか、Windows IoT Enterpriseを搭載した専用端末も販売しています。Windows IoT Enterpriseを含むWindows for IoTの導入を検討するのであれば、TEDに相談してみてはいかがでしょうか。

 

 

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富樫純一

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。