コラム

本格化し始めたIoTシステム
導入事例に見るさまざまな活用法

製造業、流通業、建設業などさまざまな業種業界の企業が、IoTシステムを利用した新しいビジネスを展開し始めている。すでにIoTシステムを稼働させ、ビジネスを成功に導いている事例にはどのようなものがあるのか。ビジネスに役立つIoTシステムを導入するためのヒントとして、複数の業種業界における代表的な事例をユースケースとして紹介する。

設備の監視と製品品質の向上に活用する製造業

製造業は、IoTシステムの導入が最も進んでいる業界だ。中でも、工場の生産設備・装置を監視・保守する用途としてIoTシステムを導入する企業が増えている。

工場の生産設備や装置は従来、定期的なメンテナンスを実施して異常の有無を目視で検査し、消耗部品を交換することで故障を未然に防いでいた。それでも異常が発生する可能性があるので、設備や装置にパトランプやアラーム発生装置を取り付け、万一の事態が発生した時に警報で知らせるようにすることが一般的だ。

しかし、こうした従来の監視・保守には課題も多い。定期的なメンテナンスは時間がかかるため、一時的に操業を停止して実施しなければならない。目視による検査では、異常を見落としてしまう恐れもある。パトランプやアラーム発生装置による警報は故障の事後になるため、修理するまでにタイムラグがある。ダウンタイムが発生すれば、生産計画に影響を及ぼすリスクもある。

こうした多くの課題を抱える設備や装置の監視・保守にIoTシステムを導入すれば、センサーデバイスが計測した異音、異常な振動や温度変化をリアルタイムに検知し、故障が発生する前に修理や部品交換などの処置がとれるようになる。目視による検査では見落としがちな微細な異常も発見できるので、故障率は低下する。摩耗や劣化のない部品を事務的に交換することもなくなり、コスト削減にもつながる。このように目に見える効果的な導入メリットがあることから、監視・保守用途のIoTシステムは製造業にとって最も導入しやすいと言える。

最近は、こうした監視・保守用途のIoTシステムを製品の品質向上に役立てている事例もある。例えば、自社製品にIoTセンサーデバイスをあらかじめ組み込んでおき、稼働状況をリモート監視するという使い方だ。製品の故障を予知して事前に対応できるので、製品品質の向上につながるのである。製品にGPS機能を備えたIoTセンサーデバイスを搭載して盗難対策に活用している事例もある。

さらに、稼働管理や売上管理などの機能を組み込み、ビジネスの競争力強化に役立てている事例も存在する。例えば、家電メーカーのアクア(旧・三洋電機、現・Haierグループ)では、コインランドリー向けの業務用洗濯機にIoTシステムを搭載し、クラウド上のWebサービスを通じて、利用者やオーナーがリアルタイムの状況を確認できるサービスを提供している。利用者は洗濯機に空きがあるか、洗濯時間がいつ終わるかといった情報をスマートフォン経由で閲覧できる。オーナーは洗濯機の稼働や売上データを管理でき、臨機応変な料金設定やリモートによるトラブル対応もできる。まさにIoTシステムが新しいビジネススタイルを創出している好例だ。

cloud IoTランドリーシステム マルチ端末

図1 ● アクアの「ITランドリーシステム」概要図(アクアのサイトより転載)

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災害予兆や構造物監視など、建設・土木分野で広がる用途

製造業と同様に、主に監視・保守の用途でIoTシステムが活用されているのが、建設・土木の分野だ。特にエネルギー業界では、IoTシステムを利用した遠隔監視が広く普及し始めている。

近年、再生可能エネルギーが注目され、国内でも山上や洋上に風力発電機が立ち並ぶ様子や、山間部の斜面に大規模な太陽光パネルが敷き詰められている光景を目にするようになった。こうした遠隔地にある設備を監視し、故障予知に結びつく異音や異常振動などを早期に発見することが、IoTシステムを導入する狙いだ。電源供給が難しく、3G/4Gなどの移動体通信の電波が届きにくい場所であっても、IoTシステムでは低消費電力で広範囲をカバーするLPWA(Low Power, Wide Area)を使った通信方式が確立されていることも、導入を促進する要因になっている。

また、国や地方自治体で導入が進みつつあるのが、災害警戒区域や構造物の監視を目的としたIoTシステムだ。日本で毎年のように発生する集中豪雨による土砂災害を予兆するために、危険な場所に雨量や土中水分量を計測するセンサーを設置し、異常を検知したら即座に避難を勧告する仕組みである。

さらに、トンネルや橋梁などの点検にIoTシステムを取り入れる動きも加速している。これらの構造物の点検は遠望目視が中心であり、老朽化に伴って近接目視による点検の必要性が高まっているのにもかかわらず、対応しきれないという課題がある。この課題を解決するために構造物にセンサーを取り付けてIoTシステムによる監視を行い、異常の予兆をいち早くつかんで計画的に修繕するのだ。実際にこうしたIoTシステムの仕組みを導入した自治体では、構造物に大きな損傷が発見されてから対処する従来の事後保全型管理に比べ、構造物の長寿命化を図って大規模更新に伴う経費を削減する効果が上がっているという。

農業分野で活発化し始めたIoTシステムの導入

最近になって少しずつIoTシステムの活用が始まったのは、農業分野だ。すでにいくつかのユニークな事例が登場しつつある。

その一つが、2017年秋から実証実験が始まった「養豚IoT」と言われる取り組みだ。総務省のIoTサービス創出支援事業の施策としても採択されたもので、IoTシステムを利用して食用豚の生産管理コスト削減を目指している。豚の成育状況を観察するカメラ、飼料の消費量や温度・湿度を計測するセンサーを畜舎内に設置し、豚の体重を推定しながら過去の出荷データと組み合わせて分析し、無駄のないスケジュールで出荷時期を決定するものだ。従来は豚の体重を人手で計測して出荷時期を決定していたが、人手による作業が大幅に省力化することで生産コストの削減も見込まれるという。

また、トマト栽培のビニールハウスにIoTシステムを導入し、耕作地の地温や水分量、pH(水素イオン濃度)やEC(電気伝導率)値、二酸化炭素濃度などを計測して灌水・肥料の量を決定する取り組みも始まっている。不良品の廃棄量が減り一定品質のトマトが収穫できるという効果がすぐに表れ、勘と経験に頼った属人的な技能による品質のばらつきをなくす方策としても期待されている。

農業分野ではさらに、IoTシステムのセンサーデータや耕作記録データなどをブロックチェーン技術で管理し、改ざん防止された情報として消費者に提供するトレーサビリティ用途にも適用されている。実際に有機農産品の安全性をアピールするために生産管理情報をトレースできる状態で販売したところ、通常の倍以上の価格でも即座に完売したとのことだ。農産物の付加価値を高めるためにも、IoTシステムは有用な手段になりつつあるのだ。

事業の役割範囲

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図2 ●実証実験が始まった「養豚IoT」(総務省資料より転載)

小売店の来店顧客管理など新たなソリューションも登場

小売・流通業でもIoTシステムの活用が始まっている。その一つに、店舗に設置されている監視カメラの映像を分析し、来店顧客の行動を把握・分析するIoTシステムがある。

このシステムでは、カメラで撮影した顧客の顔を画像認識処理によりID化し、顧客の行動データを蓄積・分析する。従来は顧客囲い込みを目的に会員カードを発行するなどして名前や住所、電話番号などの情報を取得・管理していたが、このシステムでは顔そのものがIDになるので、情報を聞き出す必要がない。顧客の来店日時、推定年齢や性別、顔の表情による感情などの属性を取得し、会計時の顔画像認識とPOSデータを時刻で照合すれば購買データの蓄積もできる。IoTシステムが顧客の顔を覚え、データに基づいたセールストークを行ったり、顧客サービスを提供したりできるわけだ。

ただし、2017年5月に施行された改正・個人情報保護法により、顔や虹彩、歩き方といった身体の一部をデータ化した「個人識別符号」も個人情報と指定されたため、カメラで撮影した画像の用途を公表、または直接本人に通知する必要がある。こうした法令による縛りはあるものの、名前や住所、電話番号といった直接的な個人情報よりもはるかに秘匿性が高いため、今後は活用が広がっていくことだろう。

ここまで紹介した数々の事例は、導入が進むIoTシステムのほんの一握りにすぎない。センサーデバイスから取得するデータ、それを分析処理する基盤、さらにアイデアがあれば、あらゆるビジネスに活用できるのがIoTシステムの魅力なのだ。

富樫純一

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。