コラム

“製造業の未来”はこうなる!
「ものづくりAI/IoT展」にみる最先端IoTソリューション

製造業を中心にIoTシステムが広く普及した現在、AIやクラウド、セキュリティなどの最先端技術を活用したDXソリューションが続々と登場しています。2023年6月21~23日に開催された「日本ものづくりワールド」を構成する専門展の一つ「ものづくりAI/IoT展」では、数多くの出展社がさまざまな最先端AI/IoTソリューションを展示しました。今回は同展示会に参加した東京エレクトロンデバイスのブースに展示された「ものづくりの未来」を予感させる数々の最新ソリューションを紹介します。

最新のAI/IoTソリューションが目白押し

2023年6月21日~23日、東京ビッグサイトにおいて日本最大級の製造業向け展示会「第35回 日本ものづくりワールド」(RX Japan主催)が開催されました。10の専門展からなる展示会には合計1,847社の企業が参加、コロナ禍が明けて初の本格的な製造業向けイベントということもあり、3日間合わせて6万6,895人(主催者発表)が来場しました。

 

そんな日本ものづくりワールドのなかでも、とくに活気に溢れていた専門展の一つが、製造業向けの最先端AI/IoTソリューションが集結した「ものづくりAI/IoT展」です。この専門展には東京エレクトロンデバイス(TED)も出展、組み込み機器のスマート化を支援する「スマートエンベデッドソリューション」、生産性向上やセキュリティ強化を実現する「スマートファクトリーソリューション」の2つのコーナーで構成された同社のブースは、多くの来場者で賑わっていました。

 

今回は、TEDブースに展示されていた“製造業の未来”を予感させるAI/IoTソリューションを紹介します。

 

ものづくりAI/IoT展のTEDブースの様子

ものづくりAIIoT展のTEDブースの様子

スマートエンベデッドソリューション

AI顔認証技術による生産現場のセキュリティソリューション

最初に紹介するのは、産業用エッジPCと3Dカメラを使ったAI顔認証ソリューションです。このソリューションは工場・生産施設における入退管理の効率化、防犯セキュリティの強化、取り扱い資格が必要な機材のアクセス管理などを目的にTEDが開発を進めているもので、基盤となるAI顔認証技術にはサイバーリンクの「FaceMe®」が採用されています。

 

FaceMeはNIST(米国立標準技術研究所)が主催する顔認証ベンチマークテスト「FRVT(Face Recognition Vendor Test)1:1/1:N」でも常にトップクラスに入る成績を記録・更新し続けているAI顔認証エンジンです。ISO/IEC 30107-3に準拠したiBeta Quality Assurance(品質保証サービスを提供する米国の第三者機関)の「プレゼンテーション攻撃検出(PAD)テスト レベル2」において満点を獲得するなど、業界最高水準の顔認証技術として高く評価されています。

 

このFaceMeを活用したTEDのソリューションは、一般的な正面からの顔認識はもちろん、ウォークスルーで複数人を同時認証したり、マスク着用者を高精度に認識したりできる能力を備えています。TEDでは、工場・生産施設や工事現場における入退管理、食品製造の安全性を担保するセキュリティ管理、有資格者による作業実績の記録や品質管理といった用途に最適なソリューションとして提案しています。ソリューションで利用する産業用エッジPCや3Dカメラの選定をサポートする「コンシェルジュサービス」もTEDは提供しており、ハードウェアを含めたワンストップでの導入も可能です。

 

AI顔認証技術によるセキュリティソリューション

AI顔認証技術によるセキュリティソリューション

内蔵ML (Machine Learning)アクセラレータによる簡単エッジAIソリューション

次に紹介するのは、オンプレミス環境のエッジAIソリューションです。信頼性の高い産業用IoTに最適な2.3TOPSのML(機械学習)アクセラレータ、メモリコントローラ、グラフィックエンジン、カメラ/オーディオインターフェイス、セキュリティ機能などを搭載したNXP Semiconductors社製i.MX 8M Plusプロセッサにより、小型かつ低消費電力が求められる環境でもコストを抑えながら導入できることが特長です。

 

このソリューションは、工場・生産施設で稼働する製造装置の保全管理や製品の品質管理など、さまざまな用途での活用が想定されています。TEDブースでは完成品の品質検査を想定し、部品の組付け間違いを検出するデモを用意、また店舗内やイベント会場での活用例として、TEDブースの来場者を追跡して人数をカウントするデモも行われました。

顧客満足度向上を実現する各種OEM向けソリューション

顧客満足度向上を実現する各種OEM向けソリューションも展示されました。そのうちの一つが、出荷した製品のトラブル解決・メンテナンスをリモートから迅速・セキュア・的確に行える装置メーカー向けソリューション「FalconLink on Azure」です。

 

FalconLink on Azureは顧客先に設置されている対象装置の操作画面をインターネット経由で共有することにより、サポートスタッフが電話で的確にアドバイスしたり、遠隔操作でトラブルを解決したりできるソリューションです。クラウドベースのリモートサポートサービスなので、顧客の社内ネットワークへログインする必要はなく、専用回線の設置やネットワーク機器の設定も一切不要という特長があります。すでに半導体検査装置・電子計測器の大手メーカーで採用実績があり、すぐに導入することが可能です。

 

このほか、10年間にわたってバージョンを固定できる組み込み機器向けのWindows OS「Microsoft Windows IoT Enterprise」、エッジからクラウドまでスマートOEMプラットフォームとして活用できるデル・テクノロジーズ製のサーバー・制御系PC・操作系PC、ゼロデイ攻撃などの脅威からデバイスを保護するホワイトリスト型エンドポイントセキュリティ「Trellix Embedded Control」「Trellix Mobile Security」なども展示されました。

スマートファクトリーソリューション

サイバー攻撃からOTを守る工場向けセキュリティソリューション

スマートファクトリーソリューションでは、工場向けネットワークセキュリティソリューションとして、トレンドマイクロ「Edgeシリーズ」が展示されました。

 

EdgeシリーズはOT(Operational Technology:制御技術)ネットワーク環境に特化したセキュリティソリューションというコンセプトで開発された製品です。工場・生産施設の制御系ネットワークに設置するだけで、配下に接続されている産業制御機器・装置などの重要資産をサイバー攻撃から保護します。脆弱性を悪用したサイバー攻撃をブロックするIPS/IDS機能に加え、産業制御機器・装置で使われるOTプロトコルの通信を制御する機能も備えているところが大きな特長です。

 

また、「工場内の既存ネットワークが変更できない」「生産設備の稼働を止められない」といった場合でも、OTネットワークへ透過的に導入することが可能です。さらに、セキュリティパッチの更新ができないレガシーOSの保護を実現し、外部からのマルウェア感染や脆弱性攻撃を防ぐことができます。外部ネットワークと隔離されているという理由からセキュリティ対策を怠りがちなOTネットワークには、導入を強くお勧めします。

OTネットワークの異常を検知・可視化するセキュリティソリューション

OTネットワークに最適なソリューションとして、もう一つ展示されていたのが「Microsoft Defender for IoT」です。これはOTネットワークに設置したオンプレミスの管理コンソールを通じて、ネットワークマップとデバイスの詳細を視覚的に可視化するというソリューションです。既存のOTネットワークに影響を与えることなく、簡単・低コストで導入できるほか、機械学習とOTデバイスの行動分析による脅威検知も可能です。

 

OTネットワークのセキュリティ対策については、経済産業省の「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」でも、「工場内のOTデバイスの可視化・データの収集・監視」「工場システムに異常が発生した際の的確な検知」が求められています。Microsoft Defender for IoTを活用すれば、このガイドラインに沿ったセキュリティ対策が実現できます。

 

OTネットワーク 可視化・異常検知の仕組み

OTネットワーク 可視化・異常検知の仕組み

工場内機器・装置の相互運用・データ活用ソリューション

スマートファクトリーソリューションでは、ユニークな最新ソリューションも展示されていました。その一つ「OPC UA over TSN ソリューション」は、産業オートメーション用の通信プロトコル「OPC UA over TSN」を利用し、工場内の装置・機器の相互運用とクラウドによるデータ活用を実現するソリューションです。同期性を保証してリアルタイム性を確保しながら、異なるプラットフォームの機器間で簡単かつ安全にデータ通信できるとともに、完全性・機密性・可用性に対応するのが特長です。クラウドを活用してデータを容易に収集・蓄積・可視化したり、収集したデータを利活用して機器・装置の故障予兆を実現したりといったことも可能になっています。

 

このほか、あらゆる作業を映像で“見える化”するクラウドサービス「CHIPS」も注目を集めていました。このサービスは多視点カメラを使って死角をなくし、あらゆる作業の状況把握を容易に実現するというものです。安価なハードウェアを採用し、最大10台までのカメラ映像を同期再生できるほか、クラウドストレージは録画保存期限と容量が無制限で利用できるという特長があります。API連携によって作業実績などの外部データと組み合わせれば、作業動画分析を用いた工程改善や不良原因究明を実施して生産性や品質の向上に役立てることができます。

 

 

今回はTEDブースに展示されていた“製造業の未来”を予感させる各種AI/IoTソリューションを紹介しました。一部に参考出品もありましたが、いますぐに導入できるソリューションが数多く展示・デモされました。何らかのソリューションに興味を持ったなら、TEDへ問い合わせてみてはいかがでしょうか。

富樫純一

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。