コラム

IoTでビジネスが変わった! 最先端IoT活用ユースケース

各種IoT技術が確立されて本格的な活用が始まった現在、従来のビジネスを変えるような先進的なユースケースが登場し始めている。特に人手不足が深刻な業種業界では、IoTの導入によって業務負荷軽減という課題を克服し、ビジネスの成長に結びつけた企業も少なくない。今回のコラムでは、そんなIoT活用の先進ユースケースを紹介しよう。

ユースケース1:営業用社有車のIoT化を進め、訪問修理サービスの無店舗化を実現

「自動車のIoT化」で中心となりやすい主な話題がコネクテッドカーや運転支援、運行管理であることから、IoTは自動車業界や物流・運輸業界向けソリューションという印象が強い。

 

しかし、自動車がビジネスに欠かせないという業種業界は他にもたくさんある。その一つが、訪問修理サービス事業を展開する業界だ。オフィスや一般家庭の建物・設備・機器が故障したり消耗品が切れたりした際に対応する訪問修理サービスでは、修理に使う部品や工具を持ち運ばなければならないため、自動車は必需品となっている。

 

訪問修理サービス事業者 A社では、現場で修理を担当するサービスマン一人ひとりに営業用社有車を貸与している。設備・機器メーカーを問わずに修理に対応できるように、営業用社有車には多種多様な部品を積み込んで修理依頼のあった現場へ駆けつける。

従来は全国各地に営業拠点の店舗を構え、サービスマンが部品を補充してから出動するという体制だった。しかし、部品の種類や点数が非常に多いため、在庫管理を担当するサービスマンの負担は大きく、補充ミスにより現場で修理作業を行おうとしたら部品がなかったという事態がしばしば発生していたという。作業の遅れによるサービス品質の低下や機会損失を防ぐためにも、在庫管理と適切な補充の徹底が課題だった。

 

課題を解決するために、A社は営業用社有車をIoT化。センサーを使って部品在庫管理を行い、不足があった際には自動的に本部の倉庫へ通知し、倉庫から補充する部品を送付するという仕組みを作り上げた。これにより部品在庫を一時的に置いていた全国各地の倉庫が不要になり、営業用社有車がそのまま「走る店舗兼倉庫」として機能するようになった。A社ではさらに、現場の見積書や作業完了報告書、領収書などの書類作成をタブレットを使って現場で対応できるシステムも構築し、サービスマンが各拠点の店舗に戻って行っていた書類作成作業もなくした。

 

この結果、全国各地の営業拠点を全廃して無店舗化。営業用社有車を倉庫兼店舗として使用し、サービスマンの勤務をすべて直行直帰に切り替えた。在庫管理の課題を解決しただけでなく、拠点の賃借料などのコスト削減、労働時間短縮による働き方改革の実現などの効果も得られた好例だろう。

図1 営業用社有車のIoT化により「走る店舗兼倉庫」として活用可能に

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ユースケース2:生体情報センシングにより、介護職員の労働負荷を軽減

少子高齢化による人口減少時代に突入した日本では、多くの産業の市場規模が漸減傾向にある。ただし、高齢者向けに製品・サービスを提供する医療・医薬や介護・福祉などの分野に限っては市場規模が拡大しており、今後もますますニーズが増えるものと予想される。

 

市場規模の拡大とともに顕在化している大きな課題が、人手不足だ。特に介護市場においては、人材不足を訴える施設が82%に上り(介護労働安定センター「介護労働実態調査」調べ)、2035年には介護に携わる人材が79万人も不足する(経済産業省の試算による)と言われている。

 

こうした人材不足の解消を目指し、介護業界では外国人労働者を受け入れたり労働環境の改善に取り組んだりとさまざまな施策を打ち出している。そうした中、解決策の一つとして注目されているのが、IoT技術の活用だ。

 

高齢者介護施設の運営と訪問介護サービス事業を展開するB社では、IoTセンサーを利用した介護見守りシステムを導入した。施設または訪問先の居室にあるベッドマットレスや布団の下に生体情報を感知するセンサーデバイスを取り付け、リアルタイムに情報収集するとともに異常があった際には即座にアラートを発信するというものだ。

 

従来は介護施設内でも訪問先でも、介護職員が定期的に巡回して見守りをしていた。主に職員の目視による確認だけなので、微細な変化を見逃したり重大な異常の発見が遅れたりするケースもあった。しかし介護職員の人手不足により、これ以上見守りの頻度を増やすことは難しい。そこで導入したのが、生体情報センシングの仕組みだった。

 

B社が導入した仕組みでは、IoTセンサーがベッドに横になっている際の心拍や呼吸、睡眠時のいびき音、寝返りなどの情報をつぶさに取得。また、遠隔操作カメラと声掛け機能を搭載した卓上型ロボットを設置して、介護職員がいつでもリアルタイムの映像で確認できるようにした。

 

この仕組みを導入したことで、介護対象者の状態把握をリアルタイムで共有できるため、微細な変化や重大な異常の発見遅れなどを未然に防ぎ、職員の見守り業務の負荷を軽減しながら、より細やかなケアが可能になったという。

図2 生体情報センシングにより介護対象者の状況をリアルタイムで共有し、早期対応が可能に

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ユースケース3:フルサービスを維持しながら、接客業務の効率化を達成

介護・福祉分野と並んで人手不足に悩まされている分野として、飲食サービスが挙げられる。厚生労働省の資料(「人手不足の現状把握について」)の中で、飲食サービス分野は人手不足が深刻な産業の一つと位置づけてられており、賃金水準の低さや休暇の取得しにくさなどの原因で離職率が非常に高いという問題点を指摘している。

 

こうした人手不足に耐えきれず、営業時間を短縮したりセルフサービスを取り入れたりして接客省力化を試みる飲食店も少なくない。その一方で、IoT技術を活用して業務改善と業績向上を目指す取り組みに挑戦する飲食店も登場し始めている。

 

全国に飲食チェーンを展開するC社は、そんなIoT技術の活用に取り組む企業の一社だ。同社は人材不足に対応するために、接客スタッフのオペレーションを変えることで作業を効率化できないかと考えた。そこでスタッフが注文を取る際に使用するハンディ端末に測位センサーを組み込み、行動を計測・分析してみた。すると、厨房やバックヤードへの行き来が多く接客に集中できていないことが判明したという。C社は分析結果に基づいて設備レイアウトや接客マニュアルを変更し、オペレーション教育を充実させた。

 

さらにC社では、テーブル上に設置したコールベルも変更した。ボタンを押して接客スタッフを呼び出すだけだったものを、追加注文、会計、片付け、お冷といった用途に応じて置けば内容が伝わるものへと変えたのだ。

 

これらの仕組みを導入した結果、注文から料理提供までの時間、顧客に呼び出されて対応するまでの時間が大幅に短縮された。その分顧客との接客時間が増えたことで追加注文が入るようになり、客単価向上・売上向上につながったという。

 

C社では導入していないものの、飲食業界向けのIoTシステムには、厨房内の冷蔵庫や客室に温度センサーを設置して温度管理や空調管理の作業省力化を実現したり、タブレットによるセルフオーダーシステムを導入して注文ミスやレジ会計業務負荷を削減したりといったさまざまなIoTシステムソリューションが提供されている。

 

今回は特にスタッフの作業効率化、あるいは人手不足に対応する省力化を実現したIoTシステムのユースケースを紹介した。IoTシステムというと、製造業の生産現場に設置されている設備・機器の故障予兆、物流倉庫における温湿度管理や在庫管理、作業動線の改善などの用途が多いのは事実だ。しかし実際には、こうしたさまざまな産業向けにも適用分野は確実に広がりつつあるのだ。

図3 測位センサーによるスタッフの行動分析で、接客の効率化に向けた具体策が次々と実現

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このように一部の先進企業で導入が進むIoTシステムは、近い将来に広く普及していくに違いない。センサーデバイスから取得した情報を分析すれば、必ずや何かしらのビジネス効果をもたらす結果が得られるはずだ。

もちろん、どんなビジネス効果が得られるかはそれぞれの企業によって大きく異なる。投資対効果が読みきれずに導入を見送る企業も少なくない。

 

だが、最近はIoTシステムをビジネスに利活用するための支援を行うコンサルティングサービス、あるいは事前にPoC(概念検証)を実施して効果を測定するサービスなどを提供するSIベンダーが増えている。導入コストを抑えながら、スピーディーにIoTシステムを構築できるクラウドサービスも充実しつつある。社内で悩み、アイデアを絞り出そうと頑張ることも大切だが、まずはIoTシステムに関する豊富な経験・知見を持ったSIベンダーに相談してみてはいかがだろうか。彼らがきっと有益な気づきを与えてくれるはずだ。

富樫純一

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。