コラム

新型コロナ対策で活躍する最新IoTシステム事情

新型コロナウイルス感染症対策の一環として、さまざまなIoTシステムの活用が始まっています。センサーデバイスが収集した情報の分析・活用を自動化できるIoTシステムは、人間の介在をできる限り排除したい感染症対策に最適であり、すでに多くのIoTシステムが世界中で稼働しています。今回は感染拡大防止を目的に導入が進みつつある「最新IoTシステム事情」についてレポートします。

感染拡大防止に期待が高まる「接触確認アプリ」

新型コロナウイルス感染症によるパンデミック(世界的大流行)が一段落した日本では、“ポスト・コロナ”の新しい生活様式と、流行の第2波・第3波に対する備えを模索する動きが活発化しています。とくに最近は、センサーデバイスが収集したデータをネットワーク経由でクラウド上に蓄積し、用途に応じた分析結果を導き出して次のアクションを自動的に実行するという、IoT技術を応用したシステム開発の流れが加速しており、すでに多種多様なIoTシステムが稼働しています。

例えばテレビや新聞の報道で目にする機会が多い「主要駅・繁華街の人出」を観測した統計情報は、スマートフォンのGPS機能や基地局のセルID、Wi-Fiなどから取得した位置情報をもとに携帯電話事業者が算出したものです。これはスマートフォンをIoTデバイスとして活用した、最もわかりやすいIoTシステム例と言えるでしょう。

また、日本政府の新型コロナウイルス感染症対策テックチームが開発を進めているスマートフォン向け「接触確認アプリ」も、IoTシステムの代表的な例です。このアプリはスマートフォンに搭載されているBluetoothの機能を活用して、人と人との接触を検知・記録し、コロナ陽性が発覚した際に感染者と一定期間内に接触した人に通知するというものです。5月にはグーグルとアップルの両社から接触確認アプリ用APIの正式提供も始まっており、アプリの導入が進めば濃厚接触者の迅速な割り出しが可能になると期待されています。

ちなみに、中国や韓国では感染者との接触を発見・特定・追跡できるスマートフォンアプリを使ったIoTシステムが運用されており、感染拡大防止策としての有効性も認められています。しかしながら日本をはじめとする先進主要国では、プライバシー侵害の懸念から中韓と同様の仕組みの導入には消極的です。その点、日本の接触確認アプリはセンシングデータが匿名化され、個人情報の取得や電話番号の紐づけも行われないなど、プライバシー保護に十分配慮された設計になっているので、安心して利用できそうです。

 

図1●接触確認アプリの機能構成と主な情報の流れ(出典:新型コロナウイルス感染症対策テックチーム)
https://cio.go.jp/node/2613

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“3密”を監視・検知・警告するIoTシステムが次々に出現

一方、民間のITベンダーを中心に開発が進められているのが、「密閉」「密集」「密接」のいわゆる“3密”状態を監視・検知・警告する各種IoTシステムです。これらのIoTシステムは、主にオフィス・店舗・病院・学校・公共施設といった人の集まる場所での利用を想定したもので、4月以降に新しいソリューションが次々に出現しています。

そうしたIoTシステムのうち、ユニークなソリューションをいくつか紹介しましょう。

小売業界向けソリューションを展開するLocarise(ローカライズ)社が開発したのが「locarise TRAFFIC『Signal』」です。これは、店舗や施設の出入口に設置した高精度3Dセンサーカメラが撮影した画像から来店者・入場者数をリアルタイムに把握し、タブレットやデジタルサイネージの画面にその状況を表示する仕組み。センサーカメラが計測した人数から「注意」「規制」などを色分けで表示することで、来店者・入場者の行動変化を促すことが可能になります。このIoTシステムは、大手ホームセンターの店舗において実証実験が行われています。

IoTサービス/ソリューション事業を展開するウフル社は、同社のIoTオーケストレーションサービス「enebular」を使った3密の可視化システムを開発しました。このシステムは、店舗内に環境センサーを取りつけ、密閉度には二酸化炭素(CO2)濃度の変化、密接度には会話音量の変化を計測して、それぞれを可視化するという仕組みです。同社ではコロナ対策に取り組む店舗が継続運営と従業員安全確保に役立てられるように、enebularのフリープランと環境センサーを組み合わせた可視化システムを構築・公開するためのノウハウを無償で公開しています。

高精度カメラとCO2センサーを組み合わせて3密状態を可視化する換気モニタリングシステムは、IoTプラットフォーム/コンサルティング事業を展開するグリッドリンクからも提供されています。同社のシステムは、画像認識機能を備えたAIカメラが室内の人数や滞在時間を計測するとともに、CO2濃度を連続モニタリングすることで閉鎖空間の換気状態を見える化するものです。遠隔操作機能が実装されたIoTシステムを基盤とし、データの収集だけでなく、換気・空調・空気清浄設備の制御をカスタマイズで実装できるのが大きな特長だそうです。

画像処理技術を得意とするフューチャースタンダード社も、CO2濃度から密閉度を計測する「換気状態検知サービス」を提供しています。同社は他にも、顔認証用の小型カメラと手洗いエリアを撮影するカメラの映像から、誰がいつ手洗い・消毒を実施したかを自動で記録に残す「手洗い・消毒記録サービス」、カメラで撮影した映像を解析して人の密集度を定期的に記録する「密集度検出ソリューション」など、同社の映像解析プラットフォーム「SCORER」を活用したIoTシステムも提供しています。

このほか大手通信事業者KDDI社の「KDDI IoTクラウド Standard 換気促進パッケージ」など、同様の機能を提供するIoTシステムは多数存在しています。

 

図2●店舗・施設内の“3密”を警告する「locarise TRAFFIC『Signal』」(出典:Locarise社)
https://locarise.com/jp/about/news/

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感染リスク排除に役立つ検温IoTシステムも登場

もう一つ、とくにニーズが高いのが、検温関連のIoTシステムです。

IoTソリューション事業を展開するMomo社は、非接触検温センサーを使ったIoTシステム「検温がかり」「IoTガードマン」の提供を開始しました。このシステムは検温センサーとスマートフォンのビーコンアプリを連動させることにより、高体温の疑いがある従業員がどこに滞在して誰と接触したかを自動的に記録・データ化します。特定の従業員のみが出入りするオフィスや工場などの検温作業を無人化できるのに加え、万一感染者が発生した場合、濃厚接触者リストを素早く簡単にリスト化できるという特長があります。

AI/IoTプラットフォームベンダーのジーマックスメディアソリューション社では、体温測定AIサーマルカメラと自動ドアなどのIoTデバイスを連携させた遠隔体温測定サービス「Wisbrain-IoT」を提供しています。このサービスは現場に検査担当者を置かなくても、遠隔から高体温の人へ注意喚起したり映像確認したりできるほか、用途に応じてデバイスを制御する機能も搭載されています。仕組みそのものはクラウドで提供され、現在設置されている既存のカメラに対応しているため、設置工事を行わずにすぐに利用できるというメリットがあります。

ここまでコロナ対策として登場した各種IoTシステムを紹介しましたが、これらはほんの一例に過ぎず、現在も続々と新しいソリューションが発表されています。今回のパンデミックによって、私たちはデータの取得から活用までを自動化して無人化・省力化できるIoTシステムの有用性を改めて認識することができました。

総務省が2019年7月に公開した「令和元年版情報通信白書」によると、全世界のIoTデバイス数は2020年に約400億台に迫ろうとしており、今後もコネクテッドカー、デジタルヘルスケア、スマート工場などの分野で成長を予想しています。そうしたIoTデバイスを活用するIoTシステムは今後もさらに増え続け、“ポスト・コロナ”“ウィズ・コロナ”時代の新しい生活様式、新しいビジネススタイルを強力に支援していくに違いありません。

 

図3●遠隔体温測定サービス「Wisbrain-IoT」の仕組み(出典:ジーマックスメディアソリューション社)
https://zms.co.jp/assets/pdf/200528_press_release.pdf

 

遠隔体温測定サービス「Wisbrain-IoT」の仕組み(出典:ジーマックスメディアソリューション社)

 

※文中に掲載されている商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。

富樫純一

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。