コラム

IoT技術の最新事情
サステナビリティ(持続可能性)に貢献する
先進IoTソリューション

IoT技術の進展により、世の中ではさまざまなソリューションが利用されています。とくに最近は、社会の「サステナビリティ(持続可能性)」に対する関心の高まりを受け、その実現に貢献する新しいIoTソリューションが続々登場しています。今回は「カーボンニュートラル(脱炭素)」「廃棄物処理・リサイクル」「フードロス対策」など、サステナビリティへの貢献を念頭に置いた先進的なIoTソリューションを紹介します。

3つの領域で導入が進むIoTソリューション

ここ最近、メディアの報道や企業のESG活動のなかで国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」が取り上げられる機会が増えたこともあり、一般生活者の間でも社会のサステナビリティに対する意識が高まっています。それに伴い、サステナビリティへの貢献を想定したさまざまなIoTソリューションが登場してきています。

 

今回は、社会のサステナビリティを実現していくために外せない「カーボンニュートラル」「廃棄物処理・リサイクル」「フードロス対策」という3つのテーマに焦点を当て、それぞれの領域で導入が進む代表的なIoTソリューションを紹介します。

 

① カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにするという取り組みのことです。社会のあらゆる活動のなかで排出される温室効果ガスの総量から、植林・営林やカーボンリサイクルによる温室効果ガスの吸収量を差し引き、その数値をゼロ以下にすることを目指しています。2015年に採択されたパリ協定以降、日本を含む多くの国と地域が「2050年カーボンニュートラル」の目標を掲げていることもあり、カーボンニュートラルへの取り組みは企業が果たすべき重要な社会的責任(CSR)の一つに数えられています。

 

そんなカーボンニュートラルの実現に向け、とくに真剣に取り組むことが求められているのが、製造業を中心とする産業部門です。2022年4月に環境省が発表した「2020年度温室効果ガス排出量(確報値)」(https://www.env.go.jp/content/900445398.pdf)によると、2020年度におけるCO2排出量全体の37%を産業部門が占めています(エネルギー起源のCO2排出量を電力および熱の消費量に応じて各部門に配分した場合)。産業部門の約9割を占める製造業の工場では、生産設備・機器の稼働によって大量のエネルギーが消費されているため、旧来の設備・機器を高効率・省エネの新しい設備・機器に更新するだけでも、カーボンニュートラルに向けて一歩前進することになります。

 

しかしながら、自社のエネルギー使用量を可視化・分析・診断できなければ、温室効果ガス排出量をより正確に把握できません。そこで工場の生産現場で導入が進みつつあるのが、設備・機器に設置したセンサーからエネルギー使用量のデータを収集し、それを可視化して生産情報と連携させてエネルギーロス状況や要因特定を行うIoTソリューションです。このIoTソリューションにデータ分析の仕組みを組み合わせ、エネルギー使用量から温室効果ガス排出量を算出するというソリューションも登場しています。

 

このようなカーボンニュートラルに向けた取り組みは今後、企業内だけでなくサプライチェーン全体に広がっていくと見られており、米国の調査会社ガートナーでも2025年までにIoT環境センサーとカーボンフットプリント(原料調達から廃棄までの温室効果ガス排出量換算)測定技術が広く普及すると予測しています(※同社プレスリリース参照)。

 

※調査会社ガートナーのプレスリリース
https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2022-04-21-gartner-says-three-emerging-environmental-sustainability-technologies-will-see-early-mainstream-adoption-by-2025

 

図1●エネルギー使用量の可視化を含む既存生産設備向けIoTソリューションの例

 

図1●エネルギー使用量の可視化を含む既存生産設備向けIoTソリューションの例
(出典:https://esg.teldevice.co.jp/iot/azure/solution/detail_contec2.html

② 廃棄物処理・リサイクル

社会のサステナビリティを考えるうえで、廃棄物処理・リサイクルは決して欠かすことのできない取り組みの一つです。世界に比べて廃棄物処理やリサイクルに関する技術力が優れていると言われる日本においても、廃棄物処理・リサイクルをより効率的に進めていくには需要と供給の適切なマッチングが必要になります。また、労働力人口減少の煽りを受けて深刻な人手不足に悩まされている廃棄物処理・リサイクル業界にとって、廃棄物処理・リサイクルの効率化は省人化の観点からも極めて有効です。

 

そうした課題の解決を目指し、産官学連携で2016年に設立されたのが「廃棄物処理・リサイクルIoT導入促進協議会」です。この協議会はIoT技術を活用して廃棄物処理・リサイクルを高度化し、サステナビリティの実現につなげる活動を推進しています。

 

IoT技術を活用した具体的な取り組みとしては「収集ルートの効率化」「仕分け・分解・選別の自動化」「焼却炉等プラント運転の高度化」などがあります。例えば「収集ルートの効率化」はゴミ集積所にゴミの量を計測するセンサーを設置することで、ゴミ収集車が効率的にゴミを収集する仕組みを構築し、ゴミ収集にかかるコストを削減しようという取り組みです。また「仕分け・分解・選別の自動化」では廃棄物が運搬された処理場における仕分け・分解・選別の作業工程に、AI自動選別ロボットを導入して省人化を目指す取り組みが進められてきました。なお、廃棄物処理・リサイクルIoT導入促進協議会は2022年5月に「高度資源循環・デジタル化推進協議会」へと名称変更し、さらに活動の幅を広げています。

 

このような廃棄物処理・リサイクルの取り組みはすでに協議会以外にも広がっており、2019年度には長野県北部13市町村の広域エリアを対象にした広域リサイクルの実証実験も行われています。この実証実験では、IoTセンサーを装備した回収ボックスを設置してリサイクルや再利用が可能な古紙・古着・金属などの堆積状況を遠隔で把握。それを分析して効率的な回収ルートを設定するというものでした。現在は実証実験の結果を踏まえ、環境省が中心となって廃棄物処理に関する規制の見直しを進め、新たなビジネスモデルとして全国に広げるという次のフェーズに移っています。

 

図2●長野県北部で行われた次世代型広域リサイクルの実証実験

 

図2●長野県北部で行われた次世代型広域リサイクルの実証実験

(出典:内閣官房 https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/190408besshi.pdf

③フードロス対策

国連のSDGsでは、2030年までに世界全体の一人当たり食品廃棄を半減させ、生産やサプライチェーンで生じるフードロスを減少させるという目標が掲げられています。しかし国連環境計画(UNEP)が発表した「Food Waste Index Report 2021」によると、世界のフードロスは9億3,100万トンに上り、日本でも522万トン(農林水産省・環境省の公表値)に及びます。このようなフードロスを削減するために、例えば食品メーカーでは容器包装を工夫して鮮度保持期限を延長したり、一人前ずつの個包装によって食べ残しを防いだりといった取り組みが行われています。そうしたアプローチの一つとして、IoT技術を活用したソリューションの導入も始まっています。

 

日本で2020年6月に施行された食品衛生法改正案により、食品を取り扱う小売店・飲食店などの全事業者はHACCP(Hazard Analysis Critical Control Point=国際標準の食品衛生管理手法)の適用が義務化され、食品保管時の温度管理と記録を継続的に行う仕組みをつくり実行することが求められるようになりました。一方、世界的な課題であるフードロスの対策としても、食品保管時の温度管理は今後ますます求められていくでしょう。

 

しかし現状は、食品の温度計測や記録を人手に頼ることが多く、その正確性や運用負荷、コストに課題がありました。これらの課題を解決し、HACCP遵守、フードロス削減にもつながると期待されているのが、IoTソリューションで実現する食品温度モニタリングの仕組みです。

 

東京エレクトロンデバイスでは、食品温度データを収集し、クラウド上に蓄積・可視化し、リモートでモニタリングできるIoTソリューションとして「Cassia 食品温度モニタリングキット」を提供しています。同キットでは、オールインワンで簡単・安価に食品温度のリモート管理ができます。

 

 

図3●Cassia 食品温度モニタリングキットの構成図

 

図3●Cassia 食品温度モニタリングキットの構成図
(出典:https://esg.teldevice.co.jp/iot/azure/solution/detail_cassiafoodmonitoring.html

多種多様なIoT技術がサステナビリティを支援

本記事ではカーボンニュートラル、廃棄物処理・リサイクル、フードロス対策を取り上げ、社会のサステナビリティを実現するIoTソリューションを紹介しました。このほかにも、再生可能エネルギーやゴミ焼却施設の熱から発電した電力を安定供給する仕組み、土木インフラや建築構造物の持続的な保守保全に貢献する監視・予兆の仕組みなど、サステナビリティを実現するIoTソリューションは数多く存在しています。

 

つまり、多種多様なIoT技術があるからこそ、社会のサステナビリティが実現されると言えるのではないでしょうか。

 

 

※文中に掲載されている商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。

富樫純一

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。