コラム

“自動車のDX”が加速
コネクテッドカー向けIoTプラットフォームの最新動向

EV(電気自動車)/FCV(燃料電池自動車)の普及とともに、自動車のコネクテッド化が急速に進んでいます。自動車に搭載したIoTセンサーデバイスから収集したデータをインターネット経由でリアルタイムに収集・分析・活用し、自動車の安全性や自律性を高める仕組みが続々と実用化されるなど、まさに“自動車のDX”が加速しています。ここでは各社が取り組むIoTプラットフォームやサービスなどコネクテッドカー関連の最新動向を紹介します。

コネクテッドカーの普及で立ち上がる多種多様なサービス

香港の調査会社 Counterpoint Technology Market Research社が2022年10月に発表したコネクテッドカー市場調査によると、2022年第2四半期(4~6月)における世界のコネクテッドカー普及率は50.5%に達し、初めて非コネクテッドカー(通信機能を持たない自動車)の販売台数を上回るという結果が出ました。世界の大手自動車メーカーは現在、車種ラインアップのコネクテッド化を積極的に進めており、今後もコネクテッドカーのシェアが拡大していくことは間違いありません。

 

コネクテッドカーの普及に伴い、コネクテッドカーから取得した走行データを活用する付加価値サービスも立ち上がっています。とくに自動車のオーナーやドライバー向けのサービスは充実しており、リアルタイム交通情報やニュース配信などカーナビゲーションシステムと連携したマルチメディアサービス、車両診断や故障予測、メンテナンス通知などの車両管理サービスのような従来から提供されてきたサービスに加え、最近では事故発生時にエアバッグの作動を検知してコールセンターに通報する自動緊急通報システム(eCall)、事故を未然に防ぐ衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)や速度警告、燃料残量・バッテリー充電状況監視といった安全管理サービスも数多くの自動車に実装されています。さらに、走行データを活用した保険サービスを提供する自動車メーカーや保険会社も増えています。

 

一方、コネクテッドカーから取得した走行データを第三者に提供し、新たなサービスの創出を目指す取り組みも進みつつあります。例えばドイツのBMWグループは、ユーザーの同意に基づいて車両の走行距離や燃費、整備・点検履歴、運転情報などのデータを保険会社や整備事業者に提供する「BMW CarData」というサービスを提供しています。また本田技研工業は、カーナビゲーションシステムから収集した走行データを分析して地域活性化や社会インフラ整備、防災・交通対策などに役立てることを目指す可視化サービス「Honda Drive Data Service」を提供しています。

 

第三者によるサービス開発支援のためのプラットフォームを提供する自動車メーカーも登場しています。例えばトヨタ自動車は、第三者のコンテンツ事業者がトヨタのテレマティクスサービス「T-Connect」のアプリストア経由でサービスを提供できるプラットフォーム「TOVA(Toyota Open Vehicle Architecture)」を構築し、開発者向けにAPIやSDKを提供しています。またフランスのルノーも、車載端末でダウンロードできるマーケットプレイス「R-LINK」を用意し、専用アプリを開発する第三者向けにサービスプラットフォームを提供しています。

 

 

図1●トヨタが構築した「TOVA(Toyota Open Vehicle Architecture)」の概念図

図1●トヨタが構築した「TOVA(Toyota Open Vehicle Architecture)」の概念図

(出典:https://global.toyota/jp/download/3241448/

「標準化」がカギとなるコネクテッドカー向けプラットフォーム

このようなコネクテッドカー向けプラットフォームについては、自動車メーカー系列以外の企業の参入も見られます。世界最大級の半導体メーカーであるインテルは、コネクテッドカーから収集したデータを分析・活用する「コネクテッドカー・プラットフォーム」をコンセプト化しています。このプラットフォームではあらゆるデータを専用のデータレイク(Vehicle Data Lake)に集約し、マーケットプレイスを通じて第三者のサービス事業者やコンテンツ事業者が利用できるというものです。ちなみに、このプラットフォームはインテルからリファレンスモデルとして供給され、実際のサービスは協業パートナーが独自のクラウドサービスなどに組み込んで提供されます。

 

こうしたコネクテッドカー向けプラットフォームは、ドイツのボッシュや日立グループの日立Astemoといった大手自動車部品メーカー、米Amazon Web Servisesや米Microsoftなどの大手クラウドサービス事業者などもそれぞれ個別に開発・提供しています。

 

すでにさまざまなサービスが実用化されているコネクテッドカーですが、これが完成形というわけではありません。現時点のサービスは自動車のオーナーやドライバーを対象にしたものが大半であり、自動運転や車両制御といった領域についてはまだ発展途上の段階です。とくに道路上に設置された道路標識や信号機、各種ITS(高度道路交通システム)と通信しながら協調型の自動運転を実現する仕組み、自動車同士が通信しながら無人運転の隊列走行を実現する仕組みなどは、実用化に向けた課題がまだ数多く残されています。

 

なかでも最大の課題となっているのが、非コネクテッドカーの存在です。ITSとコネクテッドカーが連動して交通渋滞を自動的に回避するような仕組みをつくろうとしても、ドライバーの判断と運転技量に依存する非コネクテッドカーが混在しているいまの状況では、実現はほぼ不可能です。この状況を打破するには、公道を走行するすべての自動車をコネクテッド化する必要があります。

 

そこで研究開発が進められているのが、衛星測位機能で位置情報が取得できるGPSトラッカーを搭載した後付けのコネクテッドデバイスです。例えば米Microsoftと米Salesforceも出資するトヨタグループのコネクテッド事業会社であるトヨタコネクティッドでは、ノンコネクテッドカー(トヨタ車以外も含む)に取り付け可能なGPSトラッカー搭載デバイスや取得したデータを可視化するIoTプラットフォームの開発を進めています。

 

もう一つ、コネクテッドカーが広く普及していくうえで不可欠なのが「標準化」です。自動車を電子制御するECU(Electronic Control Unit)については2003年に発足したAUTOSARが中心となって標準化に取り組み、2012年からはIVI(In-Vehicle Infotainment:車載情報通信)システム用OS「Automotive Grade Linux」を開発しています。2015年に米Googleが「Android Auto」をリリースすると、自動車メーカー各社がこぞって採用するなど、コネクテッドカーに搭載されたデバイスの標準化は進みつつある状況です。

 

通信方式については C-V2X(Cellular V2X)やDSRC(Dedicated Short Range Communications)といった通信技術に集約され始めていますが、現時点では世界各国の周波数帯割り当てに制限があるという課題も残されています。

 

今後、こうした標準化の動きが世界の自動車業界および各国の社会インフラで進み、さらにGPSトラッカーデバイスなどが非コネクテッドカーに搭載されると、すべての自動車と自動車、自動車と交通インフラの通信・データ交換が可能になるわけです。近い将来、こうした時代が到来すればコネクテッドカーのサービス領域は格段に広がることでしょう。

 

図2●「車車間(V2V)通信」「路車間(V2I)」「歩車間(V2P)通信」を実現する C-V2Xの概念図

図2●「車車間(V2V)通信」「路車間(V2I)」「歩車間(V2P)通信」を実現する C-V2Xの概念図

(出典:https://5gaa.org/c-v2x-explained/

 

※文中に掲載されている商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。

富樫純一

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。