コラム

経産省からの中間報告書『DXレポート2』にみる
“日本のDXのいま”

『DXレポート』の発行から2年が経過した2020年12月、経済産業省はDXの取り組み状況をまとめた中間報告書『DXレポート2』(中間取りまとめ)を公表しました。DXレポートにより日本企業の間ではデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速したと言われていますが、実際はどのような状況にあるのでしょうか。DXの状況と取り組むべき戦略・施策が提言されたDXレポート2の内容を探ります。

日本企業のDXへの取り組み状況が二極化

2018年9月、経済産業省は『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』を公表しました。このDXレポートでは、老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存システムがDXを推進する際の障壁になると警鐘を鳴らし、いわゆる「2025年の崖」というインパクトのある言葉に注目が集まりました。

これ以降、2025年までに既存システムの刷新を目指してDXを推進する企業が急増。経済産業省でも、DXの取り組み方を解説する「DX推進ガイドライン」、取り組み状況の自己診断を促す「DX推進指標」、デジタルガバナンスのあるべき姿を示した「デジタルガバナンス・コード」、DX先進企業を紹介する「DX認定」「DX銘柄」など、企業のDX推進を後押しする施策を次々に展開しました。

 

ところが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)がまとめた「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート」をもとにDX推進の取り組み状況を分析した結果、95%の企業はDXにまったく取り組めていない(=DX未着手企業)か、散発的な実施にとどまっている(=DX途上企業)ことがわかりました。一部少数の先行企業と何も取り組めていない企業に二極化しつつある状況が明らかになったのです。

 

これを受け、経済産業省はDXレポートによるメッセージが正しく伝わっておらず、「DX=レガシーシステム刷新」というDXの本質とは異なる解釈、「現時点で競争優位性が確保できていれば、これ以上のDXは不要」といった受け止め方を生んでしまったと分析。またコロナ禍による危機的状況に対し、ITインフラや制度・ルールを迅速・柔軟に変更して対応できた企業と、対応できなかった企業の差が拡大しているという現状を踏まえ、企業のDXを加速するための課題と解決策を新たに取りまとめました。

それが、2020年12月に公表された『DXレポート2』(中間取りまとめ)です。

企業が目指すべきDXの方向性と対応策

DXレポート2ではまず、企業が目指すべきDXの方向性が明確に示されています。コロナ禍ではいち早くテレワークに移行して、事業継続を確保するなど環境変化に即応できた企業と、そうでない企業に大きな差が生じました。成否の分かれ目になったのは、これまでは疑問を持たなかった企業文化の変革に踏み込むことができたかどうかという点だと指摘しています。すなわち「事業環境の変化に迅速に適応し、ITシステムのみならず、企業文化も変革すること」こそが「DXの本質」であり、企業の目指すべき方向性だとしています。さらに「コロナ禍によって社会の固定観念が変化した今こそが、企業文化を変革する機会であり、すぐに企業文化・ビジネスを変革できない企業はデジタル競争の敗者になる」という厳しい見方もしています。

 

では、コロナ禍という厳しい状況に直面する企業は、どのような施策に取り組むべきなのでしょうか。DXレポート2では「コロナ禍でも従業員・顧客の安全を守りながら事業継続を可能とするにあたり、以下(図1)のようなカテゴリーの市販製品・サービスの活用による対応を検討すべき」と提言しています。さらに、これらを迅速かつ全社的に導入するには「経営トップのリーダーシップのもとに企業文化を変革していくことがファーストステップになる」としています。

 

 

図1●企業が直ちに取り組むべきアクションカテゴリー

(出典:DXレポート2

 https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-2.pdf

 

図1●企業が直ちに取り組むべきアクションカテゴリー

 

 

DXレポート2は「DX=レガシーシステム刷新」という誤解を解くために、DX推進に向けた短期的・中長期的な対応についても触れています。

 

短期的対応としてはまず、「DX推進に向けた関係者間の共通理解の形成」「CIO/CDXOの役割・権限等の明確化」「遠隔でのコラボレーションを可能とするインフラ整備」といったDX推進体制を整備することが挙げられています。また、業務プロセスを再設計するなどのDX戦略を策定し、DX推進指標を使って定期的に状況を把握することも示されています。

 

中長期的対応としては、IT投資効果を高めるデジタルプラットフォームの形成に取り組むこと、変化対応力の高いITシステムを構築して産業変革を加速させることなどを挙げるとともに、企業のDX推進を支援する立場にあるベンダー企業に対しても、事業変革に取り組んでユーザー企業との新たな関係を築くことが提言されています。それに加え、ジョブ型人事制度を拡大したり、DX人材を確保したりといった人材面の対応にも言及しています。

 

 

図2●DXレポート2に示されたDX加速シナリオ

(出典:DXレポート2のサマリーより一部抜粋)

 https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-1.pdf

 

図2●DXレポート2に示されたDX加速シナリオ

施策の方向性と検討の進め方も明記

DXレポート2には、DX推進に向けた施策とその方向性、その具体的な検討の進め方についても明記されています。

 

DXレポート2を取りまとめた経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」のワーキンググループが進めているのが、経営者向けに関係者間で共有すべきDXに関する対話の内容をまとめた「ポイント集」の策定です。このポイント集は、DXの推進に向けて経営者・事業部門・IT部門が対話を通じて同じ視点を共有し、協働してビジネス変革に向けたコンセプトを描くという目的を果たすためのものです。「DXとは何か」「会社のビジネスにどう役立つのか」といった基本的な項目を含めて共通理解を形成し、経営者が将来のビジネスを見据えたビジョンを提示するために利用されることを想定しています。

 

また、日本企業の間で曖昧になりがちなCIO(最高情報責任者)/CDXO(最高DX責任者)の役割を再定義する取り組みも進められています。企業によってはCIOがDXを推進するCDXOを兼務している例が見られますが、経営レベルでDXを推進するにはそれぞれの役割を明確にする必要があります。そこで経営者の役目として、CIO/CDXOが担うべき役割やガバナンス対象事項を再定義しようというのがこの取り組みです。

 

さらに、経営者が「経営とITは表裏一体」という認識を持ってDX戦略を立案できるように、DXの適用領域や具体的なアクションを検討する際の手がかりとなる「DX成功パターン」の策定にも取り組んでいます。このDX成功パターンには、DXに向けた戦略の立案・展開にあたって前提となる「組織戦略」「事業戦略」「推進戦略」が含まれるほか、DX推進指標における“DXの定義”を「デジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタルデータ化)」「デジタライゼーション(個別の業務・製造プロセスのデジタル化)」「デジタルトランスフォーメーション(組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、価値創出のためのビジネスモデル変革)」に分類してフレームワークを定義し、成功に向けたパターンと施策内容、期待される効果などを示しています。

 

国ならではの取り組みとしては、業界他社との協調領域を合意形成してリソースの投入を最小化する共通プラットフォームの構築、デジタル企業同士が横連携してエコシステムを形成するデジタルプラットフォームのアーキテクチャ設計などが進行中です。

 

DXレポート2に明記された各種の施策が実行されることにより、DXに対する認知・理解が向上し、DXがさらに加速していくことは間違いありません。DX推進を他人事ととらえるのではなく、改めて向き合ってみることをお勧めします。

 

 

富樫純一

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。