コラム

IPA「組込み/IoTに関する最新動向調査」にみる
日本企業のDXへの取り組み、その実態とは?

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、組込み/IoT産業の実態と最新動向の把握を目的に実施した「2022年度 組込み/IoT産業の動向把握等に関する調査」の結果を2023年6月に公開しました。本稿では組込み/IoT関連の製品・サービス事業者とその利用者を対象にした調査結果のなかから、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組み状況や進め方・効果に関する調査結果に焦点を当て、日本企業が推進するDXの実態を探ります。

DXに対する取り組み状況が明らかに

経済産業省が2018年10月に「DXレポート」を公開してから、日本企業の多くがデジタルトランスフォーメーション(DX)―― デジタル技術を活用したビジネス変革に取り組んできました。それからおよそ5年が経過した現在、日本企業が進めるDXの取り組みはどのような状況にあるのでしょうか。

 

日本におけるDXの現状を探るべく、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の社会基盤実装委員会「組込み・OT系DX検討部会」が毎年実施しているのが「組込み/IoT産業の動向把握等に関する調査」です。この調査は、組込み/IoT関連の製品・サービスを取り扱う事業者とその利用者を対象に行ったアンケート調査で、2023年6月には「2022年度組込み/IoT産業の動向把握等に関する調査」(2022年11月~12月実施)の結果が公表されました。

 

今回はその調査結果から「DXに関する取り組み」の項目に焦点を当て、日本におけるDXへの取り組み状況について、その実態を考察します。

 

なお、IPAが公開している調査結果の詳細についてはホームページを参照してください。

https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/kumikomi/kumikomi-iot2022.html

 

DXに対する取り組みについての最初の質問では、「いまの世の中のDXの動き」に対する「事業への影響」「DXの必要性」「DXの取り組み状況」をそれぞれ尋ねています。事業への影響については、57%の企業が「非常に大きい」または「大きい」と回答しており、DXの動きが自社の事業環境に大きなインパクトを与えていると考える企業が過半数に上りました。DXの必要性については、64%の企業が「非常に高い」または「高い」と回答し、事業への影響よりもDXの必要性を感じている企業の多いことがわかりました。

 

しかしながら「DXの取り組み状況」については、「非常に活発」「活発」と回答した企業が37%であり、DXの必要性は理解しつつも、DXの取り組みを積極的に推進している企業が3分の1強にとどまっていることが明らかになりました。

 

DXの取り組みを推進している企業はどのような目標を設定しているのでしょうか。「重点目標として設定している」または「設定している」という回答が最も多かったのは「業務効率化による生産性の向上」の46%という結果でした。次いで「顧客ごとに特化した製品・サービスの提供」が34%となっており、以下「デジタルデータの保護・透明性・自律性・信頼の強化」(29%)、「顧客中心主義の企業文化の定着」(29%)、「インフラ整備による製品・サービスの価値向上」(27%)が続きます。

 

これらの結果から見てとれるのは、デジタル技術を活用して自社の業務効率化を実現し、顧客にとってより価値のある製品・サービスを提供できるようなビジネス変革を目標に掲げる企業が多いことです。これは、DXの本質的な狙いとも大きな差異はありません。

 

DXについて設定した目標(出典:IPA「2022年度組込み/IoT産業の動向把握等に関する調査」)

全社一斉でDXに取り組む企業は少数派

では、具体的にどのようなDXへの取り組みが行われているのでしょうか。「実施中」という回答が最も多いのは「経営トップのコミットメント」(39%)、次いで「社内外でのビジョン共有」(34%)、「経営・事業部門・IT部門が相互に協力する体制の構築」(29%)となっており、企業経営層が関与してトップダウンによりDXの取り組みを推進する企業の多いことがわかりました。自社のビジネス変革を実行するには、やはり経営層の理解とリーダーシップが必要と言えるでしょう。

 

また企業で実際に行われている「DXの進め方」を見てみると、まだまだ発展途上であることがわかります。DXに取り組む企業であっても、「全社で一斉に実施している」と回答した企業は26%にとどまり、「一部で実施後に全社展開」「一部でのみ実施」とした企業が74%を占めています。

 

現時点においては、DXに取り組みやすい部門・部署から着手して、段階的に適用範囲を拡大する企業が多いようです。そのためか「DXの行動指針」を策定している企業は、DXに取り組んでいる企業のわずか11%にすぎないという結果も出ています。なお、DXの行動指針を策定している企業は「ビジョン駆動」「継続的な挑戦」「価値重視」といった内容を盛り込んでいるようです。

 

そして気になるのは、「DXの効果」がどれだけもたらされているかということです。DXに取り組む企業が「効果があった」「やや効果があった」としたのは、「生産効率の向上」(49%)、「労働環境の改善」(49%)、「製品・サービスの価値向上」(33%)の順でした。ただし、DXの取り組みを始めてから時間がそれほど経過していないこともあるためか、「わからない」とする回答も多いので、評価はこれからといったところでしょう。

 

ちなみに、「新規事業の創出」「地域社会への貢献」という効果を挙げた企業はそれぞれ25%、13%であり、まずは既存ビジネスの強化を目的にDXに取り組んでいる段階の企業が多いようです。

 

DXについての取り組み(出典:IPA「2022年度組込み/IoT産業の動向把握等に関する調査」)

各社に共通する「人材の確保・強化」の課題

今回の調査では、各社の事業課題についても質問しています。そこで「当てはまる」という回答が最も多かったのが「人材の確保・強化」という課題でした。日本社会全体が少子高齢化・労働人口減少という課題に直面するなか、どの企業にとっても人材育成は喫緊の課題であり、それを如実に示す結果となっています。

 

調査のなかで「確保・強化したい人材」を尋ねたところ、「最優先で確保・強化したい」という回答が最も多かったのは「ビジネスをデザイン/構築できる人材」(21%)でした。次いで「プロジェクトマネージャ」(20%)、「システム全体(モノ/コト)を俯瞰して嗜好できる人材」(19%)、「設計技術者」(18%)が続いています。

 

やはり、どの企業も自社のビジネスを理解したうえで新たなビジネスを創出できる人材を求めており、そうした人材を育成できるか否かが、DXを成功させるカギを握っているわけです。また調査結果から、実際のDX推進業務を担当するエンジニアへのニーズも高いことがわかりました。

 

こうした人材の確保・強化という課題に対し、どのような取り組みが行われているのでしょうか。最も多いのは「不足人材の雇用」であり、「実施中」と回答した企業は55%に上ります。ただし、不足する人材はどの企業にも共通しているためか、優秀な人材を新たに雇用するのは非常に難しい状況です。そこで「社内人材の配置転換」(28%)や「外部専門家の活用」(26%)で乗り切ろうとする企業も少なくありません。

 

人材不足を解消する手段としては、社内人材のスキルアップやリスキリングが推奨されているものの、実際に「社内人材のリスキリング」に取り組む企業は18%、「スキル標準・ナレッジマネジメントの導入」を進める企業は12%と、まだまだ少ないのが実情です。今後は社内の貴重な人材をいかに育成していくかを真剣に考えなければならないと言えるでしょう。

 

IPAが公表した調査により、日本におけるDXへの取り組み状況がある程度見えてきました。DXが注目されるようになってから約5年が経過したものの、実際にDXに取り組んで効果が出ている企業はまだ少なく、取り組みを今後さらに加速させていく必要があるというのが、いまの実態です。皆さんの会社でも今回の調査結果と自社の状況を照合・比較し、世の中の流れに置いていかれないようにDXへの取り組みを推進することをお勧めします。

 

確保・強化したい人材(出典:IPA「2022年度組込み/IoT産業の動向把握等に関する調査」)

 

富樫純一

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。