コラム

「コネクテッドカー」を支える
IoTセンサーデバイスの技術トレンド

“走るIoTシステム”と言われるコネクテッドカー。走行中のさまざまなデータをネットワーク経由で取得・分析するために、車内には数多くのセンサーデバイスが搭載されています。コネクテッドカーを支えるIoTデバイスはどのような役割を果たし、どんな機能やサービスを運転者に提供しているのでしょうか。その最新技術トレンドを探ります。

急速に拡大する“コネクテッドカー市場”

IoT技術の進歩とネットワークの高速化に伴い、コネクテッドカー市場が急速に拡大しています。調査会社・富士経済が2019年7月に発表した予測によると、2020年には世界で3,400万台以上のコネクテッドカー(乗用車)の出荷が見込まれています。

 

そもそもコネクテッドカーとは、外部ネットワークへの接続機能を装備した自動車を指します。その前身は携帯電話経由でデータを取得できるカーナビゲーションシステムにさかのぼりますが、コネクテッドカーと呼ばれるようになったのは、3G/4G LTE回線を通じてインターネットと常時接続できる通信機能を自動車そのものが備えるようになってからです。現在は自動車を構成するさまざまな部品や装置に取り付けられたセンサーデバイスから取得したデータを、ネットワーク経由でクラウド上に収集・蓄積し、自動車メーカーなどが提供するさまざまな情報サービスを利用できる自動車を意味しています。

 

コネクテッドカーでは自動運転のような先進技術ばかりが注目されがちです。しかし、コネクテッドカーが利用できる情報サービスはそれだけではありません。自動車の性能向上から安全性向上、快適な運転走行、車両管理、さらにはエンターテインメントまで、多岐にわたっています。また自家用車や事業用車といった市販車のみならず、モータースポーツの分野にも広がっています。例えば自動車レースの最高峰である「フォーミュラーワン(F1)」のレーシングカーは完全なコネクテッドカーであり、レース中に取得したさまざまなデータをリアルタイムに分析して、故障予兆や性能向上に役立てています。

コネクテッドカーが搭載する多種多様なセンサーデバイス

コネクテッドカーでは従来、カーナビゲーションシステムやIVI(In-Vehicle Infotainment:車載インフォテインメント)システムなどの車載端末が中心的な役割を果たしてきました。しかし、いまや自動車の所有者・運転者が意識しない部分でも、センサーデバイスが取得したデータのやりとりが頻繁に行われています。

 

以下に、最新のコネクテッドカーに搭載されているセンサーデバイスの例をいくつか紹介しましょう。

 

まず、自動運転支援機能を搭載したコネクテッドカーに搭載されているのが、物体検出センサーや画像認識センサーです。これらは光検出・測距技術「LiDAR(Light Detection and Ranging)」、レーザー画像検出・測距技術「LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)」、光学カメラなどのセンサーデバイスを組み合わせて実現されるものであり、自動車の周囲空間の詳細なリアルタイムビューを取得するために使われています。現在、多くの自動車が装備するACC(アダプティブクルーズコントロール)、車線維持支援、駐車支援のような運転支援機能が実現できているのは、これらのセンサーのおかげであり、将来実用化される完全自律走行車にとっても必要不可欠なものです。

 

運転者が意識しないところで自動車の安全性や走行性能を支えているセンサーデバイスの一つに、位置センサーがあります。この位置センサーは走行中の安全基準を満たすために、アクセルペダルやブレーキペダルの角度、ギヤシフターやシャーシの位置などを検出するために使われています。またトランスミッションやパワーステアリングのモーターには回転位置センサーが取り付けられており、燃費向上や窒素酸化物(NOx)/二酸化炭素(CO2)の排出量削減のための制御に利用されています。

 

電気自動車(EV)やハイブリッドカー(HV)に欠かせないのが、動力用バッテリーのセンサーです。このセンサーはバッテリーの充電量や動作状況を正確に測定し、車両の走行可能距離を高精度に推測するために使われています。

 

このほか今後実用化が進むと期待されているのが、安全性向上を目的とする運転者監視センサーです。これは3D光学センシング技術により、運転者の姿勢や視線・視点、健康状態などを識別し、車両を安全に制御できるかどうかを判断するために使われています。

 

ちなみに、こうしたセンサーデバイスは自動車メーカーや車載部品・装置メーカーが開発競争にしのぎを削っています。

 

例えば東京エレクトロンデバイスは、先進的なセンサーソリューションの専業ベンダーであるオーストリアのamsと販売代理店契約を結び、国内外の自動車メーカーや車載部品・装置メーカー向けにビジネスを展開しています。

 

コネクテッドカーに搭載されているさまざまなセンサーデバイス

コネクテッドカーに搭載されているさまざまなセンサーデバイス

TEDが取り扱うams社 製センサーデバイスの例

TEDが取り扱うams社 製センサーデバイスの例

新たな情報サービスが登場するなか、解決すべき課題も

さまざまなセンサーデバイスが搭載されているコネクテッドカーはまさに“走るIoTシステム”であり、なかには外部ネットワークに接続しない状態でも機能するものもありますが、ネットワークに接続できればセンサーデバイスから取得したデータを高度に分析してアプリケーションの機能強化を図ったり、迅速にバージョンアップしたりすることも可能です。高機能を維持し続けるためにも、ネットワークとの接続は不可欠なのです。

 

一方、コネクテッドカーから取得してクラウド上に蓄積されたデータを分析・活用する情報サービスは、自動車が走行する周辺でも活用されています。例えばGPSセンサーから取得した走行中の位置・速度などのデータをもとに、現在提供されている道路渋滞情報よりも高精度なリアルタイムの交通状況を通知することが可能になります。また位置情報と外気の温度・湿度、ワイパーの動作などをセンシングし、それらのデータを分析して沿線の天気予測に役立てるといった新しい情報サービスも登場してきています。

 

このように日々刻々と進化し続けているコネクテッドカーですが、今後の普及のためにはいくつか解決すべき課題が残されています。その一つは、より遅延のないリアルタイム性を実現するための通信速度の課題ですが、これは近くサービス提供が始まる第5世代移動通信システム(5G)の普及によって、ある程度解消することが見込まれています。

 

最も大きく、かつ解決を急ぐべき深刻な課題と言えるのは、セキュリティです。外部ネットワークと常時接続されたコネクテッドカーでは、外部からの不正アクセスによってハッキングされてしまう危険性が否めません。事実、遠隔地からの操作によってコネクテッドカーを制御するという実験も成功しています。人の命を乗せて走る自動車だけに、万一悪意のある攻撃者によるセキュリティインシデントが発生すれば、取り返しのつかない大事件につながることも考えられます。それだけにセキュリティの課題解決は急務と言えるでしょう。

 

もう一つ、コスト面でも課題が残っています。センサーデバイスや運転支援機能などのコストは車両価格に上乗せすることも可能ですが、自動車と外部ネットワークを接続する通信費、情報サービスの利用料などをどれだけ徴収するかに課題があります。現在は主に月額課金の定額制で提供されているものの、高額では継続利用が見込めず、低額ではビジネスとして成り立たないというジレンマがあります。

 

今後はコネクテッドカーの技術革新に加え、社会全体でコネクテッドカーの実用化に向けた課題解決にも取り組みながら、より多くの自動車のコネクテッドカーへの転換が加速していくことでしょう。

富樫純一

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。