コラム

IoTの利用動向調査に見る
「国内IoT市場と国内企業」の“現在地”とは?

コロナ禍が長引き社会に与える影響も不透明さを増すなか、多くの企業がニューノーマル時代へ向けたデジタル変革を模索しています。IoTの導入もそのひとつであり、日本企業においてはIoT導入機運が高まっているという話も耳にします。実際、国内IoT市場はどの程度成長し、IoTシステムを導入している企業はどれだけあるのでしょうか。調査会社IDC Japanが2020年6月・9月・11月に発表した3つの調査レポート(注)からみえてくる国内IoT市場の現状について考察します。

コロナ禍の影響を受けながらも市場は成長

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)が発生してから丸1年が経過しました。その影響は世界経済に深刻なダメージをもたらし、業種業界を問わず多くの企業が業績悪化に苦しんでいます。国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)が2020年10月に発表した「世界経済の見通し」(https://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2020/09/30/world-economic-outlook-october-2020)によると、2020年の世界実質GDP(国内総生産)成長率はマイナス4.4%と予測されています。2021年は回復が見込まれているものの、パンデミックの第2波・第3波の発生により先の見えない状況が続いています。

 

このような中、これまで堅調だったIT投資を控える動きも出始めています。この数年間は前年比で2桁成長が続いていたIoT市場も例外ではありません。調査会社IDC Japanが2020年6月に発表した「国内IoTインフラストラクチャ市場予測」では、2020年における国内IoTインフラ市場の支出額は前年比5.1%増にとどまるとみています。2月の段階では前年比16.2%増と予測されていたので、コロナ禍により予測が下方修正された格好です。

 

ちなみにIDC Japanでは、国内IoTインフラストラクチャ市場は今後、IoTシステムが稼働するクラウドサービスやデータセンターなどの「IoTコアインフラ」の割合が徐々に減少し、IoTデータを端末に近い場所で処理する「IoTエッジインフラ」の割合が増加するとの見方を示しています。

 

また、9月に発表した「国内IoT市場テクノロジー別予測」でも、2020~21年の成長スピードはコロナ禍の影響で減速することが見込まれています。ただし2024年までの5年間では、年平均10.3%で成長すると予測されています。

 

コロナ禍に見舞われた2020~21年は、多くの企業がIoT導入を一時的に見合わせるものの、一部の企業がビジネスを成長させる原動力としてIoTに投資し、辛うじてプラス成長を維持できそうだというところでしょうか。

 

図1●国内IoT市場支出額予測 2019~2024年(出典:IDC Japan プレスリリース)
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ46881620
(棒グラフは支出金額、折れ線グラフは前年対比成長率)

 

図1●国内IoT市場支出額予測 2019~2024年(出典:IDC Japan プレスリリース)

国内企業のIoT利用率はわずか6.8%

このようにコロナ禍にも負けることなく成長を続ける国内IoT市場ですが、気になるのはやはり、どのくらいの数の企業が実際にIoTシステムを導入・運用しているかということです。その目安となるレポートが2020年11月に発表されました。IDC Japanが2020年8~9月にかけ、全国の従業員規模100人以上の企業を対象に実施した「国内IoT市場 企業ユーザー動向調査」です。

 

同調査は「IoT利用企業動向調査」と「IoT担当者深堀調査」という2つの定量調査に分かれています。IoT利用企業動向調査は、企業のIoT利用率や具体的なユースケースなど市場の概況を把握することを目的に実施されました。回答があった3,674社のうちIoT利用企業は248社、利用率は6.8%という結果が出ています。この割合は継続的に増え続けており、前年比0.1ポイント、2015年比で1.9ポイントの増加となっています。

 

IDC Japanによると、IoT利用企業の多くは社内業務プロセスの合理化/コスト削減を目的とした「社内用途」でIoTを利用しているとのことです。一方で最近は、IoTを自社の製品/サービスの付加価値や新しいビジネスの創出に役立てる「デジタルトランスフォーメーション(DX)用途」を推進する企業が増加傾向にあり、調査でも全回答の1.5%の割合を占めました。

 

IDC Japanでは、コロナ対応を優先するためにIoT導入プロジェクトが停滞している可能性を指摘しながらも、長期的にはIoTを含むデジタル技術を取り入れてDXを推進する傾向が強まるとみています。

 

図2●IoTの利用状況 2015~2019年調査との比較(出典:IDC Japan プレスリリース))
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ46993620

図2●IoTの利用状況 2015~2019年調査との比較(出典:IDC Japan プレスリリース))

IoT導入の課題解決はベンダーに相談を

IoT利用企業動向調査と同時に行われたIoT担当者深堀調査の結果は、日本企業のIoTに対する取り組みの現状や課題がわかるなど非常に興味深い内容となっています。調査は業務の1割以上をIoTにあてている「IoT担当者」を対象に実施されたもので、回答があった16,703名のうち6.7%の1,116名がIoT担当者に該当したそうです。

 

レポートでまず明らかにされたのが、「IoTの取り組みを開始してから4~5年が経過していても、その半数以上は未だにPoC(Proof of Concept:概念実証)以前の取り組みフェーズにある」という事実でした。これに対してIDC Japanでは「IoTソリューションを提供するベンダーは、そうした企業を本番フェーズに引き上げるべく、何らかの方策を見出さなければならない」と厳しい指摘をしています。

 

IoTソリューションベンダー側も、PoCを通じた効果検証、本番導入に向けたソリューションの提案などを行っているのは間違いないのですが、IoTの導入効果や価値を正しく伝え切れず、結果的に本番導入前の段階にとどまっているというのが実情のようです。

 

IoTソリューションベンダーがどんな解決策を提示すべきかは、IoT担当者が抱えている課題にヒントがありそうです。調査結果ではIoT担当者が抱える課題として「①IoT関連の人材が不足し、技術面における知見が不足している」「②ビジネス現場のIoTに対する理解が不足している」「③IoTの収益性が見通せず、経営層の理解が不足している」という3つを挙げています。

 

これらの課題を解決するためには、IoT人材の育成支援、ビジネス部門との連携支援、経営層に対するKPI(Key Performance Indicator:重要経営指標)/ROI(Return On Investment:投資利益率)の提示支援といった取り組みが、ベンダー側に求められているのではないでしょうか。

 

国内IoT市場企業ユーザー動向調査結果のプレスリリースには、「IoTを推進する人材とDXを推進する人材の双方は類似したスキルが求められており、IoTはDXを実現する上での不可欠な要素として市場に認識されつつある。IoT技術者の育成がDXの普及に向けて必須と考えられる」というIDC Japanアナリストのコメントが述べられています。

 

アフターコロナのニューノーマル時代では、デジタル技術を活用してビジネスを革新するDXの実現に向けた取り組みが加速すると予想されています。その取り組みに乗り遅れないためにもIoT導入は欠かせませんが、IoT利用率が10%に満たない現在ならば、競合他社に先んじてビジネスを優位に進めることも不可能ではありません。導入意欲はあるものの、なかなか先に進まないという企業は、IoTソリューションベンダーをもっと頼って、積極的に相談をもちかけてみてはいかがでしょうか。

 

※文中に掲載されている商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。

注)
① 2020年6月17日 IDC Japanプレスリリース「国内IoTインフラ市場予測」
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ46511020
② 2020年9月28日 IDC Japanプレスリリース「国内IoT市場テクノロジー別予測」
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ46881620
③ 2020年11月10日 IDC Japanプレスリリース「国内IoT市場企業ユーザー動向調査」
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ46993620

富樫純一

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。