コラム

地域のIoTプロジェクトを創出する「地方版IoT推進ラボ」
認定企業16社が「DXセレクション2022」の優良事例に

経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)はIoTのさらなる活用推進を図るため、地域のIoTプロジェクトを創出する「地方版IoT推進ラボ」の認定・支援を行っています。すでに全国100以上の地域が指定された地方版IoT推進ラボの概要に触れるとともに、地方版IoT推進ラボに参画する中堅・中小企業の優良事例をまとめた経産省「DXセレクション2022」(2022年3月公表)の内容を紹介します。

地方の課題解決・価値創造を目指して106地域を認定

経済産業省と総務省は2015年10月、IoT関連技術の開発や新たなビジネスの創出を産官学連携で推進する目的でIoT推進コンソーシアムを設立しました。同コンソーシアムには3,800以上の法人会員(一般企業・学校法人など)、70以上の特別会員(官公庁・地方自治体)、有識者が参加し、IoTに関する技術の開発・実証・標準の推進、IoTに関する各種プロジェクトの創出や規制改革の提言といった活動を行っています。

 

IoT推進コンソーシアムが設置したワーキンググループの一つに、IoT関連プロジェクトの共創・連携に向けた交流・情報共有・ネットワーク形成を推進する「先進的モデル事業推進ワーキンググループ(IoT推進ラボ)」があります。IoT推進ラボは「成長性・先導性」「波及性・オープン性」「社会性」の原則に基づいて、さまざまな個別プロジェクトを発掘・選定し、企業連携・資金面の支援や社会実装に向けた規制改革・制度形成などの環境整備に取り組んでいます。

 

このIoT推進ラボの活動を地方レベルに広げ、IoTの活用や人材育成を通じて各地域の課題解決や価値創造を実現するIoTプロジェクトを選定・支援するために、経産省とIPAが2016年6月に制度化したのが「地方版IoT推進ラボ」です。

 

地方版IoT推進ラボには「地域性」「自治体の積極性と継続性」「多様性と一体感」という基準を満たした106の地域が認定されています(2022年4月現在)。これらの地域では、都道府県・市町村が地域の多様な組織(公的機関、大学・研究機関、金融機関、企業・事業者など)と連携しながら、地域の課題を解決する取り組みを進めています。

 

 

図1●地方版IoT推進ラボの概要

(出所:https://local-iot-lab.ipa.go.jp/about_iotlab.html

 

 

 

図2●地方版IoT推進ラボ選定地域

(出所:https://local-iot-lab.ipa.go.jp/about_iotlab.html

地方版IoT推進ラボが推薦する優良事例を公表

地方版IoT推進ラボに認定された各地域の取り組みを加速するために、経済産業省が2021年度から新たに開始したのが「DXセレクション」です。これはデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む中堅・中小企業のモデルケースとなる優良事例を選定し、地域内や業種内の横展開を図って中堅・中小企業のDX推進や地域の活性化につなげていくことを目的としています。

 

2022年3月には「DXセレクション2022」が公表され、地方版IoT推進ラボの取り組みに参加する中堅・中小企業16社が選定されました。

 

以下、経産省「DXセレクション(中堅・中小企業等のDX優良事例選定)」ページ(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-selection/dx-selection.html)を参考に、グランプリ(1社)、準グランプリ(2社)、審査員特別賞(1社)を受賞した4社について、筆者がその概要をまとめました。

 

 

【グランプリ】

 株式会社山本金属製作所(金属切削加工業/大阪府大阪市)

 推薦:八尾ローカルナレッジシェア推進ラボ

 

山本金属製作所は「機械加工にイノベーションを起こす」をパーパスに掲げ、「精密加工技術」「ロボットシステムインテグレーション」「センシング制御・計測評価」という3つのコア技術を武器に、機械加工のモノづくりプロセスから新たな価値創造に取り組んでいる企業です。2030年に目指す姿を“Intelligence Factory 2030”として定義し、工場・生産業務プロセス・開発・営業・人材育成・海外展開の重点6分野について、デジタル技術を駆使した変革を進めています。

 

具体的には①加工現場のデジタル化と自動化、②センシング技術の高度化、③ものづくりデータの蓄積と活用、④生産拠点の複線化という4つの戦略を推進しています。これらを通じて得られた成果は、日本の製造業を取り巻く課題を解決するアウトプットとして活用するべく、新たなビジネスモデル“LAS(Learning Advanced Support)プロジェクト”の始動も視野に入れています。

 

 

【準グランプリ】

 株式会社日東電機製作所(電気機械器具製造業/群馬県太田市)

 推薦:群馬県IoT・AI推進研究会

 

日東電機製作所は国内電力会社や大手重電メーカー向けに、電力制御装置の製造・販売を手がける企業です。発電所・鉄道・浄水場などの施設で使われる電気を安定供給するための配電盤をはじめとする製品を、設計・開発から生産までワンストップで提供しています。

 

その日東電機製作所が進めているのが、自社開発の生産管理システムによるデジタル化とモノづくりの高付加価値化の取り組みです。同社はこれまでも独自の経営管理システムを自社開発するなど原価・工程・在庫の見える化・共有化、データと加工機のオンライン接続による板金加工の半自動化といったデジタル化を実現してきました。さらに現場の困り事を洗い出し、IoTによる課題解決に取り組む「チームIoT」を社長主導で組織。社員自らのアイデアによる業務改善、デジタル人材の育成にも注力し、自社のエンジニアのみで電線加工プロセスのロボットを開発したり、社内申請業務アプリをプログラマーではない社員がノーコードで開発したりといった成果をあげています。

 

 

【準グランプリ】

 株式会社リョーワ(油圧装置メンテナンス業/福岡県北九州市)

 推薦:北九州市IoT推進ラボ

 

リョーワは油圧装置の販売・修理・メンテナンスを手がける創業55年の企業です。近年の電気駆動装置への置き換え需要に伴い、これまでに培ってきた強みを活かしたオリジナルのクラウドAI外観検査システム「CLAVI」を開発しました。

 

スマートフォンを利用して部品検査を行うクラウドAI外観検査システムを開発するにあたり、リョーワはタイの大学ラボと提携。GitHubを活用して日本とタイの双方が同時に開発状況を可視化できるグローバル開発環境を整備し、開発業務の効率化を実現しています。また新しい業務システムの導入によるデータ連携を図るなど、デジタイゼーション、デジタライゼーション、DXの取り組みを段階的に進めてきました。新たに開発したクラウドAI外観検査システムは、初期投資費用と月額料金を抑えたサブスクリプション型サービスとして提供することにより、顧客である製造業企業のコスト削減と生産性向上に寄与しています。現在は、IoTとMR(複合現実)技術を応用した油圧装置遠隔メンテナンスサービスの提供に向けた実証実験に取り組んでいます。

 

 

【審査員特別賞】

 もりやま園株式会社(農業/青森県弘前市)

 推薦:青森県IoT推進ラボ

 

もりやま園は青森リンゴ発祥の地、弘前市で100年以上続くリンゴ農家です。弘前市は市域面積の約16%をリンゴ畑が占めていますが、生産者の急速な高齢化により10年以内に半数の農家が廃業せざるを得ないという危機的状況に直面しています。そうしたなか同社は、リンゴ生産を通じて「農業を成長産業に変え、マイナスをプラスに変え、農業を知的産業に変える」という経営理念を掲げ、青森県産リンゴの生産高をいまの1,000億円から20年後に1,300億円へと拡大させることを目標に、さまざまな活動に取り組んでいます。

 

その一環として、リンゴ園の農作業を可視化するクラウドアプリケーションの開発を進めました。このアプリケーションにより、従来はまったく記録されていなかった年間1万時間以上に及ぶ農作業の詳細が見える化され、リンゴの品種によって労働生産性に違いがあることを発見。また、全農作業の約75%が剪定・摘果・着色のための摘葉といった廃棄の作業に当てていたこともわかりました。農業を持続可能にするには、こうした廃棄作業をモノづくりに転じさせる必要があります。同社は現在、労働生産性を現状の3.5倍以上にするため、デジタル技術を活用した地域生産者とのさらなるオープンイノベーションに取り組み始めています。

 

 

DXセレクションではこのほか、別表の12社が優良事例として選定されています。経産省「DXセレクション(中堅・中小企業等のDX優良事例選定)」ページ(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-selection/dx-selection.html)にレポートが掲載されているので、とくに中堅・中小企業の皆さんはこれらの先進事例を参考に、自社のDXをどのように推進していくべきか、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

 

 

図3●DXセレクション2022 選定企業一覧

(出所:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-selection/dx-selection.html

 

※文中に掲載されている商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。

富樫純一

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。