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2024.06.27

IoT技術で進む近未来の街づくり「スーパーシティ/デジタル田園都市」の現在と今後

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IoTやビッグデータ、AIなどの新技術を活用し、都市DXを実現する「スマートシティ」の取り組みが始まってから10年以上が過ぎました。現在は国主導の「スーパーシティ」、さらには「デジタル田園都市」へと発展を遂げ、最先端技術を駆使した街づくりが進められています。そうした新しい街づくりにおいて、IoT技術はどのように活用されているのでしょうか。各地のユニークな事例を紹介します。


スーパーシティ/デジタル田園都市の実現に向け様々な実証実験

日本政府が提唱する未来社会コンセプト「Society 5.0」を実現するための施策の一つとして、2020年から21年にかけて「スーパーシティ構想」「デジタル田園都市構想」が相次いで発表されました。

スーパーシティ構想とは、最新デジタル技術の活用により都市インフラを高度化し、社会課題解決や価値創出を目指す「スマートシティ」を発展させた構想です。2020年9月にはスーパーシティの実現を見据えた「改正・国家戦略特区法」が施行され、茨城県つくば市、大阪府・大阪市(共同指定)の2地域が指定を受けました。

一方のデジタル田園都市構想とは、人口減少・少子高齢化・過疎化に直面する地方において、地域の個性を活かしながらデジタル技術を活用した魅力向上・活性化を実現する取り組みです。第一弾として地域の健康・医療に関する課題解決に取り組む「デジタル田園健康特区」が指定され、石川県加賀市、長野県茅野市、岡山県吉備中央町が選ばれています。

スーパーシティおよびデジタル田園健康特区に指定された地域では、2022年4月から順次、さまざまな取り組みをスタートさせました。そして現在までに、多種多様な実証実験も行われています。以下、各地域で実施された実証実験のなかから、IoT技術を活用したユニークな取り組みを紹介します。

「インフラ保守/防災」の領域でIoT技術を活用
茨城県つくば市

国の研究機関や国立大学が集積する国内最大級の学術都市である茨城県つくば市は、「つくばスーパーサイエンスシティ構想」と銘打って住民参加型スーパーシティを目指す施策を進めています。その一環として、同市は「つくば市未来共創プロジェクト事業」を立ち上げ、事業者とともに最先端デジタル技術を活用した実証実験に取り組んでいます。

その一つとして、2022年にはインフラ・設備の保守メンテナンス業務をデジタル化する実証実験が行われました。これは都市インフラの維持管理業務を効率化することを目的に、IoT技術とクラウドを活用した道路管理の仕組みを構築して効果を検証したものです。

具体的には市内の道路冠水危険個所に監視カメラと雨量水位計を設置して、そのデータをIoTダッシュボードで遠隔監視・情報共有しました。検証の結果、現場状況を把握するのに十分な画質の映像が得られ、市道路管理課の業務負担が軽減するという効果が確認できました。

このほか防災関連では、IoTと災害情報提供システムを活用して災害対応業務をデジタル化する実証実験も行われています。この実証実験では、保育園などの施設に地震センサーを設置し、地震発生時に建物の健全性を評価できるか、その評価が自治体の防災実務に活用できるかが検証されました。

また、日常的に使用する生活家電の防災利用効果を検証する実証実験が防災科学技術研究所と家電メーカーの共同によって行われました。この実証実験では音声発話機能を搭載したシャープ製冷蔵庫・エアコン・空気清浄機の対象機種を利用する市民から参加者を募集し、防災情報を模した音声情報を各家電から1日数回発信して、情報の内容をどの程度認知できたかといった伝達効果が検証されました。

IoT家電の音声発話機能を用いた防災情報の伝達効果に関する実証実験
(出典:シャープ ニュースリリース)

https://corporate.jp.sharp/news/230213-a.html

「万博」と「うめきた再開発」に合わせた取り組みを加速
大阪府・大阪市

2025年大阪・関西万博の開催に向け、急ピッチで準備が進む大阪。府・市が共同で指定されたスーパーシティの取り組みも、万博開催をターゲットに進められており、万博では ①近未来の医療・健康サービス、②自動運転車(レベル4相当)、③空飛ぶクルマ、④MaaSによる移動の円滑化といった実現を目指しています。

そんな大阪府・大阪市がスーパーシティ構想の一環として取り組んでいるのが、「うめきたパークネス」と呼ぶ街づくりです。JR大阪駅北口に広がる通称・うめきたエリアの再開発に合わせ、2期工事地区の約半分を占める大規模な公園を中心に、訪問者に“みどり”を使った体験や行動変容の機会創出といった先端的サービスを提供するものです。

具体的にはIoTセンサーデバイスを随所に設置して、 ①訪問者のヒューマンデータ(心理・生理・脳情報・行動など)を取得・活用するプラットフォームの構築、②パーソナルモビリティサービスのシェアサービス、③公園内・建物内における施設管理・配送などのマネジメント高度化、④リアルとデジタルの融合した都市空間の整備、⑤駅を活用したヘルスケア環境の構築などが進められています。

これらの取り組みにより得られた成果は、他のエリアにおける将来的な街づくりにも活用していく方針です。

うめきたパークネスにおけるサービスイメージ
(出典:大阪市)

https://www.city.osaka.lg.jp/ictsenryakushitsu/cmsfiles/contents/0000588/588397/01-06_zenntaikeikaku_P49-59.pdf

「規制改革を伴うIoT技術」の実証実験も始まる
石川県加賀市/長野県茅野市/岡山県吉備中央町

デジタル田園都市構想の第一弾として、デジタル田園健康特区に指定された石川県加賀市では、通信が行き届いていないエリアや通信設備のない高齢者宅において、健康増進や防災対策に関するIoTサービス(睡眠センサーや定点カメラなど)を実装する取り組みを進めています。

この取り組みでは、低消費電力で稼働する最新の通信プロトコル「IEEE 802.11ah(Wi-Fi HaLow)」の利用を想定していますが、Wi-Fi HaLowが使用する周波数帯は現在、「MCA(Multi-Channel Access)無線」という共同利用型の業務用移動通信システムに割り当てられており、実証実験を実施するための多数の実験試験局を開設するには、それぞれの無線設備ごとに予備免許・落成検査を受けなければなりません。そこで特区の規制緩和を活用し、特定実験試験局制度の対象として加賀市では800MHz帯のWi-Fi HaLowの利用を可能にする措置を講じました。これにより、簡易な手続でWi-Fi HaLowの実験試験局の設置が可能となり、実証実験が円滑に進められています。

長野県茅野市はデジタル田園健康特区に指定されたことを受け、2022年を「DX元年」と位置づけて「茅野市DX基本構想」をまとめました。この基本構想では、社会課題を解決するためのさまざまなサービス提供が計画されています。

そのうちIoT技術の活用事例としては、IoTセンサーで高齢者・要介護者の生活データを取得し、医療機関と連携をとる「要介護者見守りサービス」、IoTセンサーから取得した災害状況などの情報を一元化して早期の救助活動や支援物資配備に役立てる「災害対応支援システム」などが挙げられます。

町内に二次救急病院(手術や入院が必要な重症患者に対応できる救急医療機関)がない岡山県吉備中央町では、デジタル田園健康特区に指定されたことをきっかけに、IoT技術を活用したオンライン遠隔医療の仕組みを構築しました。

この仕組みは町内の山間地域の診療所に防音個室ブースを設置し、岡山大学病院の医師がリアル診療に近いオンライン診療を実現するものです。吉備中央町ではこのほか、救急病院への搬送が必要な傷病者のために救急救命士が行える処置範囲を拡大し、医師の指示のもとに傷病者情報の収集・伝送、非侵襲的治療(エコー検査・採尿など)を行えるようにする規制改革にも取り組んでいます。

岡山県の吉備中央町で進められている救急救命士の処置範囲拡大に備えた救急車両の整備
(出典:内閣府地方創生推進事務局)

https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/supercity/supercity.pdf

ここまで、スーパーシティ/デジタル田園健康特区に指定された各地域におけるIoT技術の活用事例を紹介しました。IoT技術はこれからも、スーパーシティ/デジタル田園都市構想を実現していくための最先端デジタル技術として、さらに発展していくことでしょう。

※文中に掲載されている商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。

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