コラム
2025.09.02
「開発現場の業務効率化」に貢献するAIソリューション最新動向
生成AI技術の発展に伴い、さまざまな業務領域で積極的なAI活用が始まっています。とくにソフトウェア/サービスの開発現場では、要件定義/設計からコード生成/実装、テスト/品質保証まで、開発ライフサイクルの業務効率を高める各種AIソリューションの導入が進みつつあります。今回は開発ライフサイクルの各フェーズにおけるAIの活用領域と主なソリューションを紹介するとともに、AIソリューションの導入効果やリスクを考察します。
AIが開発ライフサイクル全体をサポート
ソフトウェア/サービスの現場ではAIの導入と普及が加速しています。とくに対話型生成AIが著しい進化を遂げた結果、これまで一部の専門家に限られていたAI活用の敷居が下がり、専門知識を持たない現場担当者でも自然言語による指示でAIの能力を享受できるようになりました。
しかも汎用的な生成AIだけでなく、開発ライフサイクルの各フェーズに特化した支援を行うAIソリューションも登場してきました。これらのAIソリューションはアジャイル開発やCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)のような反復的な最新開発手法との親和性も高く、時間と手間、コストがかかる作業の大幅な効率化に役立っています。
開発ライフサイクルの各フェーズでは、どのようなAIソリューションが活用されているのでしょうか。「要件定義/設計」「コード生成/実装」「テスト/品質保証」のフェーズに分けて、AIの活用領域と代表的なAIソリューションを紹介します。
要件定義/設計フェーズ
要件定義と設計は成果物の品質とコストを決定づける重要なフェーズです。このフェーズではまず、要件定義前のアイデア出しやブレインストーミングの補完、ドキュメント生成の効率化などにAIが活用されています。
これらの用途には汎用的な大規模言語モデル(LLM)の生成AIソリューションが多く使われており、例えば自然言語で記述された要件・概要から要件定義書、基本設計書、詳細設計書、マニュアル、手順書などを自動作成することで、ドキュメント作成にかかる作業負荷を軽減させます。
汎用的な生成AIソリューションを利用する場合は、ハルシネーション(事実に基づかない情報の生成)のリスクを回避するために、目的の業務やルールなどの事前情報をあらかじめAIに入力しておくことが推奨されます。これにより、AIは開発プロジェクトの情報を整理・検証するための補助ツールとして機能することになります。
一方で、既存のソースコードから設計書やドキュメントを自動生成するリバースエンジニアリングツールの役割を果たすAIソリューションも登場してきています。
ドキュメントが不足しているレガシーシステム、属人化したEUC(エンドユーザーコンピューティング)アプリケーションの理解・保守を支援するうえで大きな価値があります。
【要件定義/設計フェーズ】の主なAIソリューション
GEAR.indigo:日本のStellaps社が開発したAI駆動要件定義ツール。プロジェクトの概要をテキストで入力するだけで、要件定義から基本設計、コード生成、工数・コストの見積もりまでを自動生成する。
コード生成/実装フェーズ
AIの活用が最も注目されているのが、コード生成/実装フェーズです。コードの自動生成機能を備えたAIソリューションは“AIペアプログラマー”とも呼ばれ、開発者の入力内容や自然言語による記述からリアルタイムでコードを提案・補完します。バグ修正や脆弱性スキャン、コード最適化といったタスクも自動化することが可能です。
こうしたAIソリューションの普及は開発の効率化というレベルを超えた変革ももたらしています。AIによって定型的なコーディング作業を自動化すれば、経験の浅いプログラマーの業務生産性向上とコード品質向上を実現するなど、開発プロジェクト全体の能力を大幅に底上げします。
さらに、仕様漏れやバグ出しといったコードレビューにかかる労力が削減できるので、開発者はより創造的な設計や複雑な問題解決に時間を費やせます。つまり、AIは開発者の価値を高めるという価値をもたらすわけです。
【コード生成/実装フェーズ】の主なAIソリューション
GitHub Copilot:マイクロソフト傘下のGitHubが開発したAIコード補完ツール。「Visual Studio Code」など主要IDE(統合開発環境)と連携し、コード生成・補完、コードレビュー、脆弱性スキャンなどの機能を提供。高速・高精度かつ汎用性の高さから多くの企業に導入され、AIコード補完ツールのデファクトスタンダードになりつつある。
Amazon CodeWhisperer:Amazon Web Services(AWS)が開発したAIコード補完ツール。開発者の生産性向上を目的に、オープンソースやAmazonのコードでトレーニングされたAIがIDE内でコード生成・補完を行う。コードスキャン機能によるセキュリティー脆弱性の検出、オープンソースのコードとの類似性を通知する機能も備える。
Tabnine:イスラエルのTabnine社(旧 Codota社)が開発したAIコード補完ツール。主要IDEとの連携が可能で、「Python」「JavaScript」「Java」「C#」など幅広い言語をサポート。入力中のコードを予測して適切な補完候補を提案するほか、開発者のコードを学習してパーソナライズされた提案も行える。

GitHub Copilotの画面例(出典:GitHub)https://github.com/features/copilot?locale=ja
テスト/品質保証フェーズ
テスト/品質保証は開発ライフサイクルのなかでもとくに重要なフェーズです。このプロセスを自動化するAIソリューションは、テストケースの自動識別・作成、テストスクリプトの自動生成、バグが潜む箇所の予測と集中的なテストなどの機能を提供します。
また、多くのAIは自己修復機能を備えており、アプリケーションのUIに変更があった際にはテストの不一致個所を自動的に検出・修復します。これはアジャイル開発のような変更が頻繁に発生する開発プロジェクトにおいて、テスト工程のメンテナンスコストを劇的に削減するものです。
さらに、多くのツールがノーコード・ローコードでの操作に対応しているので、熟練の開発者でなくてもテストシナリオを容易に作成・運用することが可能です。
【テスト/品質保証フェーズ】の主なAIソリューション
Autify:米国のAutify社が開発したAIテスト自動化ツール。Webアプリケーションやモバイルアプリに対応し、画面操作を録画するだけでテストシナリオを作成するなど、ノーコードでテストを自動化。作成したテストシナリオは、複数のOSやブラウザ、モバイルエミュレーターなどで同時に実行できる。
MagicPod:日本のMagicPod社が開発したAIテスト自動化ツール。Webアプリケーションやモバイルアプリに対応し、直感的なUIを使ったドラッグ&ドロップ操作や日本語記述でテストシナリオを作成。値チェックやジェスチャー操作など多様なテストケースに対応できる。

MagicPodの画面例 (出典:MagicPod ) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000028.000027392.html
AIソリューションの効果とリスク
開発ライフサイクルの業務効率を高める各種AIソリューションは、導入企業にさまざまな価値をもたらします。いずれのフェーズにおいても、時間短縮や工数削減、生産性向上、品質向上などの効果が顕著に現れます。
また、AIソリューションの導入が開発プロジェクト全体の満足度向上、モチベーションアップにつながっているという報告も寄せられています。プロジェクト全体の生産性向上だけでなく、開発現場における人材育成の効率化にも、AIソリューションが大いに役立っているのです。
しかしながら、AIソリューションは価値をもたらす一方、リスクも見逃せません。とくにAIの学習データや成果物の著作権、学習データの偏りによるバイアスや公平性、機密情報・個人情報保護などのセキュリティーとプライバシーの問題には留意すべきです。
ブラックボックス性の高いAIソリューションの提案を検証せずに受け入れた結果、ソフトウェア/サービスを利用する顧客の信頼を損なったり、企業イメージを失墜させたりすることは、絶対に避けなければいけません。
AIソリューションを活用する際には、AI利用ガイドラインを策定するとともに、リスクが伴うことをプロジェクト全体で認知しておく必要があります。
とはいえ、開発現場を支えるAIソリューションはこの先もさらなる発展が予想されます。すでに開発者の抽象的な指示に基づいてAIがタスクを自律的に実行し、ビジネスを運営するといったAIエージェントの開発も進んでいます。
近い将来には、要件定義から運用保守に至るまで、開発ライフサイクルの全フェーズがAIエージェントによってシームレスに自動化されることでしょう。
※文中に掲載されている商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。

富樫純一 / Junichi Togashi
ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。
関連記事
- 関連記事はありません
関連製品・サービス
- 関連記事はありません
記事ランキング