TOP»コラム・記事»生成AIにどう向き合うべきか「AI技術を活用したDX推進」に求められるスキルとは?

コラム

DX全般

2024.09.12

生成AIにどう向き合うべきか「AI技術を活用したDX推進」に求められるスキルとは?

イメージ

経済産業省は2024年6月、「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方 2024 ~変革のための生成AIへの向き合い方~」という報告書を公開しました。急速な進展が続く生成AIですが、DXを推進する企業が生成AIを業務に組み込んで利用するには、どのような人材やスキルが求められるのでしょうか。今回はこの報告書について、そのポイントを解説します。


生成AI時代の幕開けに対応

2022年11月に米OpenAI社が「ChatGPT」を公開して以来、生成AIはビジネスにおける最大関心事の一つとなりました。2023年以降はマイクロソフトやグーグルといったメガクラウドベンダーからも次々と生成AIサービスが登場し、ビジネス利用に向けた本格的な動きを加速させる企業も少なくありません。今後はさらに、生成AIの開発競争が激しさを増し、より高性能なサービスへと進化することが期待されています。

こうした状況を受けて、日本政府は2023年5月に「AI戦略会議」を立ち上げ、生成AIをはじめとするAI技術の可能性や懸念・リスクに関する議論を重ねています。リスクへの対応については、2024年4月に総務省と経済産業省のガイドラインを統合した「AI事業者ガイドライン」がまとめられています。

一方、AIの活用についてはAI戦略会議で交わされた論点を踏まえ、経済産業省の「デジタル時代の人材政策に関する検討会」が「生成AIが人材育成・スキルにもたらす影響」「ビジネスへの利活用」「既存のビジネスモデルにもたらす変化」などを議論してきました。その報告書としてアジャイルに取りまとめられたのが、今回紹介する「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方 2024 ~変革のための生成AIへの向き合い方~」(以下、本報告書と表記)です。

生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方 2024 ~変革のための生成AIへの向き合い方~https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/chusyosecurityguide.pdf

生成AI利用の現状と課題を理解する

本報告書の内容は「生成AIの利活用の現状・課題・今後」と「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキル」で構成されています。

「生成AIの利活用の現状・課題・今後」では、まず日本における生成AI利用の現在地として「生成AI市場は2030年までに年平均47.2%増で成長し、需要額は約1.8兆円規模に拡大する見込み」という電子情報技術産業協会(JEITA)の予測が示されています。また、グローバルコンサルティングファーム各社による生成AIに関する実態調査や市場予測なども紹介されています。

こうした日本における現在の状況から、本報告書では「開発者の貢献、企業の生成AI導入において前向きな対応が確認される一方、組織として生成AIを日常業務に組み込んで利用する取り組み、新たなサービス創出につながる活用、これらを後押しする経営層の関与が停滞している」と分析しています。

また、下表のような生成AI利活用事例も紹介されています。

旭鉄工:蓄積された膨大なカイゼン事例データから、ChatGPT活用によって必要なノウハウを抽出
日立製作所:インフラ保守等で蓄積したOTデータを活用し、生成AIを使って保守オペレーションをナビゲート
メルカリ:出品した商品の改善提案。AIアシストの指示に従って選択を進め、内容を更新
ベネッセホールディングス:子供の興味をもとに自由研究のアイデアやテーマ見つける「自由研究お助けAI」サービス

デジタル時代の人材政策に関する検討会で発表された生成AI利活用事例
https://www.meti.go.jp/press/2024/06/20240628006/20240628006-b.pdf

続いて、生成AIの利活用を妨げる課題と解決に向けた示唆についての解説があります。これらは検討会に参加した企業や専門家からのヒアリング、意見交換から得られたポイントを整理したものです。「生成AIへの理解不足と向き合い方」「経営層の姿勢・関与」「推進人材とスキル」「データの整備」という4つのテーマが挙げられていますが、ここでは「推進人材とスキル」をクローズアップします。

「推進人材とスキル」の課題として挙げられているのが、「生成AIによって労働生産性が大幅に向上するとともに、不定型な業務領域を代替することが想定される。これに伴い、従業員に求められる人材・スキルがどのように変化するか」といった点です。

この課題に対し、解決に向けた示唆では「推進人材に求められるスキルを明確に定義した上で人材を評価するスキルベースの取り組みが重要となる。スキルベースの人材育成は、個社を超えた環境整備として共通のスキル標準の可視化や技術の進歩を踏まえたアップデートが求められる。また効率的で普遍的な人材育成に向けて、継続的な学び、スキルアップ、キャリア形成の実現を促すための仕組みが求められる」とされており、仕組みの例としてシンガポールの「Skills Passport」というサービスが紹介されています。



5つの人材類型に求められるスキル

本報告書の本題となる「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキル」については、冒頭の一部に「企業が生成AIを組織的に導入し、DXのさらなる推進につなげていくには、DX推進スキル標準に定義されている5つの人材類型(ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティ)の活用が必要」と示されています。

また、専門人材における共通的な示唆として「生成AIの業務での活用により知識や技術が補填されるため、DX推進人材はより創造性の高い役割としてリーダーシップや批判的思考などパーソナルスキルやビジネス・デザインスキルが重要となる」「DX推進人材には『問いを立てる力』『仮説を立て・検証する力』『評価する・選択する力』が求められる」としています。

以下、DX推進スキル標準に定義されている5つの人材類型ごとに「今後求められるスキル」を抜粋して紹介します。各専門人材が担うべき役割などについては、ぜひ本報告書を閲覧ください。

● ビジネスアーキテクト

生成AIを活用してビジネスのアイデア出しや仮説立案を効率的に行うために、複数の選択肢の中から適切なものを判断できるように、経験を通じた選択・評価を行う力

● デザイナー

独自の視点を持ったユニークな問題解決能力が求められる。顧客・ユーザーの困り事や状況理解、技術を組み合わせ、顧客体験を追求する姿勢

● データサイエンティスト

「使う・作る(ファインチューニング・実装・評価)・企画」という利活用スキルと、「技術的理解、技術課題対応、倫理課題対応、推進課題対応」という背景理解・対応スキル

● ソフトウェアエンジニア

コーディングツールを上手に使いこなすAIスキル、設計や技術面でビジネス側を牽引するなどの役割を担う上流スキル、人とコミュニケーションを図る対人スキル

● サイバーセキュリティ

生成AIサービス利用の利益とリスクの評価、生成AIサービスの利用ポリシーの策定などシステムの設計・構築・運用・保守スキル

本報告書にはこれらのスキルを身につける方法は示されていませんが、人材育成ビジネスを展開する事業者から提供されている教育コンテンツなどが役立つのではないでしょうか。

アジャイルに取りまとめられた本報告書は、デジタル時代の人材政策に関する検討会で議論・発表されたさまざまな内容を集約したものですが、それでも出来る限り、わかりやすくまとめられているところに好感が持てます。生成AIをビジネスに取り入れようと考える企業のDX推進部門、IT部門、人事部門のみなさんには、一読されることをお勧めします。

※文中に掲載されている商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です。

富樫純一 / Junichi Togashi

ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。

関連記事

  • 関連記事はありません

関連製品・サービス

  • 関連記事はありません

記事ランキング

TED DRIVING DIGITAL TRANSFORMATION(TDX)
に関するお問い合わせ