コラム
2025.07.03
懸賞金活用型プログラムも始動 “日本発”生成AIソリューションの開発力強化へ
経済産業省とNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、新たな生成AIソリューションの開発・社会実装を目指す懸賞金活用型プログラム「GENIAC-PRIZE」を2025年5月から開始しました。同プログラムは2024年2月に始まった生成AI開発力強化プロジェクト「GENIAC」による一定の成果を踏まえ、生成AIのさらなる開発力強化と活用促進を一体的に推進しながら日本の競争力確保を目的としたものです。GENIACの取り組みと成果を振り返るとともに、GENIAC-PRIZEの概要について解説します。
日本の生成AI基盤モデル開発を支援
一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が2025年4月に公開した最新調査報告書「企業IT動向調査2025」によると、2024年に「言語系生成AI」が「導入済」または「試験導入中・導入準備中」という企業は41.2%に達しています。また「画像および動画系生成AI」は21.9%、「コード系生成AI」は20.8%と、生成AIの導入が確実に進みつつあります。
しかしながら、日本国内における生成AIの基盤技術開発や社会実装については、海外のいわゆるテックジャイアント企業に後れを取っている事実は否めません。
そこで2024年2月、経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との連携によりスタートしたのが、国内生成AI基盤モデルの開発力強化を目指すプロジェクト「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」です。
GENIACプロジェクトでは、日本語能力向上を目指したオープンな基盤モデル、完全自動運転に向けたマルチモーダル基盤モデル、汎用性の高い音声基盤モデルといった特定の分野に特化した基盤モデル開発など、企業や研究機関の開発テーマを採択して支援を実施。基盤モデル開発に必要な高性能GPUなどの大規模計算資源の利用を補助する取り組みも推進することで、すでに複数の生成AI基盤モデル開発につながる成果を得ています。
懸賞金活用型プログラム「GENIAC-PRIZE」とは
GENIACプロジェクトの活動をより発展させるために、2025年5月に開始したのが懸賞金活用型プログラム「GENIAC-PRIZE」です。
NEDOの懸賞金活用型プログラムは、技術課題や社会課題の解決に貢献する多様な解決策をコンテスト形式で募集することにより、将来の社会実装や新産業創出につながるシーズをいち早く発掘することを狙ったものです。
これまでにも衛星データを活用したソリューション開発をテーマにしたプログラム(2024年3月~)、生体情報とAIを融合した新しい技術領域の開拓をテーマにしたプログラム(2024年7月~)、量子コンピュータ技術の実用化をテーマにしたプログラム(2024年10月~)などが行われてきました。
今回のGENIAC-PRIZEは、生成AIサービスによっての解決が望まれる3つの領域のテーマ(下表参照)における具体的なニーズにもとづいて開発・検証した生成AIアプリケーションを募集し、成果に応じた懸賞金を授与することで、多種多様な生成AIサービスの社会実装促進を目的としています。
以下、3つの領域の各テーマについて概要を解説します。

■ 国産基盤モデル等を活用した社会課題解決AIエージェント開発
まず「民」領域においては、「社会課題解決のための国産基盤モデル等を活用したAIエージェントの開発・実装を促進する」という目的が掲げられています。
日本国内では労働者不足や後継者不足といった社会課題が顕在化しており、業務の生産性向上や技術継承が急務となっています。そうした課題を解決するために、GENIACプロジェクトでは高性能国産基盤モデルの開発が進められています。
GENIAC-PRIZEでは、そうした国産基盤モデルを活用した「製造業の暗黙知の形式知化」「カスタマーサポートの生産性向上」という2つのテーマが設定されました。前者は国内製造業の課題となっている熟練工の技術継承について、生成AIを活用して暗黙知を形式知に変換し、技術伝承や生産性向上を目指すものです。後者は高い離職率や採用難により人手不足が深刻なカスタマーサポート業務の課題を解決するために、生成AIの企業内データ学習によって業務生産性と顧客対応品質の向上を目指すものです。
いずれのテーマも国産基盤モデルを活用したAIエージェントの開発・実証を必須としていますが、実証結果を踏まえて国産基盤モデルを活用しないAIエージェントの応募も可能となっています(ただし不採用理由を提案書に記載)。審査は選定したユースケース、ユースケース実現に向けた取り組み(AIエージェントの開発)、実証成果などに対して、下表の内容で行われます。

■官公庁等における審査業務等の効率化に資する生成AI開発
「官」領域においては、「官公庁のニーズとAI開発者のシーズをすり合わせ、官公庁へのAI導入に繋がる契機とする」という目的が掲げられました。
官公庁での生成AI活用は、職員の生産性向上だけでなく国民に対する行政サービスを充実化させるという効果が期待されます。しかしながら、官公庁への生成AI実装は有望なユースケースや開発者を特定できていないなど途上段階にあり、開発・運用コストの増大化が懸念されています。
GENIAC-PRIZEでは、官公庁の共通ニーズである「審査業務の効率化」に焦点を当てた業務効率化とともに、開発・運用コストを抑えて導入ハードルを低減した横展開性のあるAIエージェントを募集します。
また、具体的な審査業務として「特許審査業務(先行技術の探索、参照個所の提示からなるタスク)」をモデルとし、出願に一致する文献の参照、一致個所の表示、類似根拠を自然言語で説明できる機能を実装したAIエージェントのプロトタイプ開発や提案も求めています。

■ 生成AIの安全性確保に向けたリスク探索及びリスク低減技術の開発
「安全性」領域では、「生成AIの安全性に関わるリスクを明らかにしつつリスクを低減する技術開発を促進し、生成AIの社会全体における利活用の促進につなげる」という目的が設定されました。
生成AIは、文章・画像・音声など新たなコンテンツを出力する創造的なタスクを処理する一方、誤情報拡散や著作権侵害、プライバシー侵害といったリスク、倫理的・社会的な問題(バイアスや差別など)が懸念されます。そうした生成AI活用時にどのようなリスク・問題が発生するかという点については、国際的にも共通の理解が醸成されておらず、具体的なリスクを網羅的に示すことが困難です。
そこでGENIAC-PRIZEでは、書面によるリスクと技術の提示、デモ実演に用いる技術の提示を求めています。リスクの妥当性や影響度、該当するリスクを低減する技術、評価手法の妥当性などを提案書にまとめ、その提案の有効性や公共性を重視した審査が行われます。

「安全性」領域における審査内容 (出典:経済産業省商務情報政策局・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)https://www.nedo.go.jp/content/800025311.pdf
GENIAC-PRIZEは、国内の多様な企業や研究者、スタートアップが生成AI開発に参画する大きなインセンティブとなるのは間違いありません。これにより日本のAI競争力が飛躍的に発展し、新たなイノベーションの創出を加速させ、日本の社会全体をより豊かなものへと変革させていくことでしょう。
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富樫純一 / Junichi Togashi
ITジャーナリスト/テクニカルライター
米国IDGグループの日本法人、旧IDG Japanに入社。
「週刊COMPUTERWORLD」誌 編集記者、「月刊WINDOWS WORLD」誌 編集長、「月刊PC WORLD」誌 編集長などを経て2000年からフリーに。以来、コンシューマーからエンタープライズまで幅広いIT分野の取材・執筆活動に従事する。技術に加え、経営、営業、マーケティングなどビジネス関連の執筆も多い。
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